コラム 2021.10.04. 19:00

斎藤佑樹が斎藤佑樹であるために【白球つれづれ】

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日本ハムの斎藤佑樹

白球つれづれ2021~第40回・斎藤フィーバー


 2021年10月3日。千葉にある鎌ヶ谷スタジアムが時ならぬ“斎藤フィーバー”に沸いた。

 日本ハム・斎藤佑樹投手が現役引退を発表したのは1日のこと。かつて、時代の寵児となった男がそれから2日後、イースタンリーグの最終戦に登板した。今月17日には札幌の一軍戦で引退試合を行うが、関東圏では最後の雄姿となる。

 緊急事態宣言が解除された影響もあるのだろう。チケットは完売、球場近くには他県ナンバーの車も目立ち、斎藤のユニフォーム姿のファンも多く見られた。

 出番はDeNA戦の6回。乙坂智選手に対して最後は133キロのストレートで空振り三振を奪った。直前にマウンドに歩み寄った早実高の後輩である清宮幸太郎選手の涙を見て自身の涙腺も緩んだ。泣きながらの投球にも「ハンカチ」はなかった。


ドラフトでは4球団が競合


 光と影の白球人生だった。

 早実で全国優勝、決勝戦は田中将大投手(現楽天)擁する駒大苫小牧高と延長15回引き分け再試合の末に頂点に立った。甲子園の球史に残る名勝負に加えて「ハンカチ王子」の愛称は流行語となり社会現象まで引き起こす。

 早大では1年春から開幕投手に抜擢されてエース街道一直線。大学通算31勝の活躍に「持っている男」のフレーズが話題を呼んだ。

 満点の実績を残して日本ハム入りしたのは11年前にさかのぼる。ドラフトでは4球団が競合する人気ぶりだった。

 ちなみにこの年のドラフトで人気を博したのは斎藤、大石達也、福井優也の「早大三羽烏」。斎藤を凌ぐ5球団の使命を受けた大石は西武に入団するが大半をファームで暮らし、一昨年限りで引退。現在は同球団の二軍投手コーチとして後進の指導に当たっている。

 広島の単独指名を受けた福井もその後、楽天に移籍して復活を期すが昨年、今年は未勝利で現役生活の剣が峰に立たされている。実力勝負の世界、過去の名声はあっても実績を残さなければ30代前半で人生の岐路に立たされる。


苦しんだ11年間


 斎藤にとって、日本ハムの11年間は故障と向き合う日々の連続となった。

 入団1年目に6勝、2年目も開幕投手に指名されるなど、順調な滑り出しを見せたが、その直後から肩、肘に故障を抱えて本来の投球を失っていく。

 「細かいことを挙げればきりがない。肩も肘も、股関節も腰も、全部ですね」と引退会見の場で本人が語っている。

 ある雑誌のインタビューでは、甲子園優勝後に高校日本代表として米国遠征したあたりから自らの投球に違和感を感じとっていたという。ストレートとスライダー主体だったが、フォークボールをマスターしたところ、投球の幅は広がったものの、リリースポイントで微妙な感覚のズレが生じたというものだ。

 早実時代に最速149キロ、早大では150キロに達したストレートの威力は、日本ハム入団後むしろ減速している。アマチュア時代からの勤続疲労に加えてフォークの多投が故障を生んだのかも知れない。事実、メジャーではフォークの投げ過ぎは故障のもととも指摘されている。

 高校時代には好敵手と呼ばれた田中将大はその後、数々の記録を打ち立ててメジャーでも活躍する。斎藤にとっては眩しい存在となってしまった。

 「マー君が5000CCの排気量を誇るスポーツカーなら、斎藤は普通の国産車並み。最初から持っている馬力が違う」とある評論家がずばりと語る。なるほど、その通りかもしれない。だが、斎藤にも意地とプライドがある。もう一度、故障を治して一軍のマウンドに戻る。ファンの前で必死に腕を振る姿を見せたい。それは斎藤佑樹が斎藤佑樹であるため自らに課した再挑戦の時間だった。


人生の第4章へ


 プロ人生の半分近くをファームでリハビリに充てたが、それでも今回の引退劇を見ていると、未だ衰えない斎藤人気の高さに驚かされる。

 「将来のことは未定」とするが、周囲からは早くも様々な転身が噂される。

 ひとつは球団に残って野球教室やアンバサダー的な役割を担うこと。23年に新球場を開設する球団にとって斎藤の持つ知名度や人気は捨てがたい。

 ふたつ目はスポーツキャスターの道だ。恩師である栗山英樹監督がユニホームを着る前はテレビ朝日系列で務めていたように、さわやかなルックスと元甲子園優勝投手の看板は魅力十分だ。

 その先にはアマチュア野球指導者の道もあるだろう。早大の監督は元ロッテの小宮山悟氏。プロへの門戸は開かれている。さらにウルトラCとして将来の早実高監督を熱望するOBの声もある。

 少年期までを人生の第1章とするなら、高校、大学の華やかなアマ時代が第2章。故障に悩まされ、不本意な成績で終わったプロ現役時代の第3章の幕が下りて第4章が間もなく始まる。今は斎藤佑樹らしい新たな輝きを見つけてもらいたい。次なる勝負の時が間もなくやって来る。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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