圧巻の2試合連続完封!
決して簡単ではないことをやってのけたのに、派手なガッツポーズはない。
遠慮気味の笑顔が「らしさ」を表していた。
10月2日の中日ドラゴンズ戦。甲子園のマウンドに最後まで仁王立ちしたのは髙橋遥人だった。
相手打線を5安打に封じ、2試合連続の完封勝利。チーム随一の球威を誇る直球に、抜群のキレ味があるツーシーム、カットボールを織りまぜる背番号29の“王道”と言えるスタイル。
あっという間に9つの「0」をスコアボードに並べて見せた。
「128球」力投の次は「97球」の省エネピッチ
しかも、ただの「シャットアウト」ではなく、要した球数はわずか97。
これは、メジャーリーグで通算355勝をマークした名投手にあやかり、100球未満での完封の際に呼ばれる“マダックス”達成も意味していた。
9月25日の巨人戦は同じ完封でも、13奪三振で128球。強力打線を力勝負でねじ伏せた一方、今回の奪三振は7個。16個のゴロアウトを量産した。
別人の2人であるような投球スタイルを使い分けられるのも、髙橋の大きな魅力と言える。
NPBでの“マダックス”は、今年5月15日の中日戦でヤクルトの小川泰弘が99球で達成して以来。しかし、阪神に限れば、時計の針を戻すどころではなくなる。
「無双」状態の25歳が救世主に
さかのぼること11年前…。2010年9月12日に秋山拓巳が93球でヤクルト打線を手玉に取った。
今や中堅として、チームのローテーションを支える男も当時は高卒1年目の19歳。背番号も現在の46ではなく、入団時の27だった。
城島健司とバッテリーを組み、1番にメジャー挑戦前の青木宣親が入ったラインナップと対峙。直球はほとんどが130キロ台で、ウイニングショットにはカーブを多投した。現在の決め球のひとつとして駆使するカットボールを投げていないことも新鮮に映る。
それでも、投球内容を見れば無四球と、球界屈指の制球力は1年目から健在。翌日のスポニチでは、評論家の鈴木啓示氏が「ほとんどが130キロ台だったにもかかわらず、ヤクルトの各打者は押され、詰まり、バットの芯でつかまえることはできなかった。一つの要因は投球フォームの素晴らしさ。『静』から『動』。しなやかで、柔らかい腕の振りからリリースポイントではしっかりと指を切っているために球速以上に球のキレがいい」と指摘。
キャリアを重ねた今も変わらない秋山のストロングポイントが不変であることも興味深い。
普段から秋山は髙橋を可愛がっており、後輩左腕の快投で自身の11年前の記録が掘り出される形となった先輩は、Twitterで「マダックス達成、秋山拓巳以来?」と嬉しそうにつぶやいた。
目下、27イニング連続無失点中で「遥人無双」の文字もSNSで溢れかえる25歳の救世主と、円熟味の増した投球術で力投を続ける30歳の柱。
2人の“マダックス”が、11年の時を経て悲願のリーグ優勝へ力を合わせている。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)