“最後の最後”で出てきた愛知の長距離砲
“運命の一日”まで、ついに1週間を切った。
今年のプロ野球・ドラフト会議は10月11日(月)に行われる。
高校野球の夏が終わり、季節は大学野球の秋へ。また、今年は都市対抗野球が11月に開催されるため、大舞台への出場権をかけた予選がドラフト候補にとっての最後のアピールの場にもなっている。
プロアマ野球研究所では、目前に迫ってきたドラフト会議当日まで、なるべく数多くの選手を紹介していきたい。
今回は、この佳境に来て猛烈なアピールに成功した大学生の長距離砲を取り上げる。
▼ 安田悠馬(愛知大)
・捕手
・185センチ/105キロ
・右投左打
・須磨翔風高
<イニング間のセカンド送球タイム>
2.00秒(※実戦で記録)
2打席連続でバックスクリーンに叩き込む
NPB歴代最多となる通算407セーブの記録を持つ岩瀬仁紀氏の母校として知られる愛知大学。
現役では祖父江大輔(現・中日)も活躍しているが、近年は苦戦が続き、2018年秋を最後に二部リーグに降格している。
そんな愛知大学で今年注目を集めているのが、主砲の安田悠馬だ。
須磨翔風高では、才木浩人(現・阪神)の1学年下で、当時はそれほど注目される選手ではなかった。
それでも、大学進学後は1年春からレギュラーに定着。一部リーグで最後のプレーとなった1年秋には、当時名城大の4年生だった栗林良吏(現・広島)から本塁打も放っている。
2年春以降は二部リーグでのプレーとなっているが、着実に力をつけて長打を量産。今年に入ってから、全12球団のスカウトが視察に訪れたという。
そんな安田の実力を確かめに、10月3日に行われた秋季リーグ戦、至学館大戦に足を運んだ。
この日も安田は「4番・捕手」として先発出場。
まず初回の第1打席に内角のストレートを弾き返し、強烈な右翼線への適時打を放って先制点を叩き出したが、この一打は“安田劇場”の前触れに過ぎなかった。
一死二塁のチャンスで迎えた第2打席では、外寄りの変化球をとらえて、バックスクリーンに直撃する本塁打。続く第3打席でも、やや内角寄りの142キロ速球をとらえ、再びバックスクリーンに叩き込んだ。
この日の会場は至学館大のグラウンドで、部員に確認したところセンターまでの距離は120メートルあるという。どちらの本塁打も、バックスクリーンの真ん中より上に着弾しており、推定飛距離は少なく見積もっても130メートルを下回ることはないだろう。
愛知の二部リーグということで、相手投手のレベルが低いと思うかもしれない。
しかしながら、1本目の相手投手は、釜谷竜哉(4年・栄徳)というプロ志望届を提出した最速147キロを誇る好投手。2本目も、この試合で最速146キロを投げていた飯田英樹(4年・東浦)という本格派投手だった。いずれも簡単にホームランを打てる相手ではない。
また、1本目はストライクをとりに来る変化球を逃さずにとらえ、2本目はフルカウントから2球ファウルで粘った後で、しっかりフルスイングしてとらえたというところに、安田の非凡さがよく表れている。
スカウト陣も思わず笑み
185センチ・105キロという堂々とした体格は、大学生の中でも一際目立つが、遠くへ飛ばせる要因はそれだけではない。下半身と上半身が上手く連動し、全身を柔らかく使ってしならせるようにしてスイングができる。
さらに、スイングの軌道もヘッドが遠回りすることなく、体の近くから鋭く振り出せることから、打球に変な回転がかからずに真っすぐ飛んでいく。これも飛距離を生み出すポイントである。
この日は4人のスカウトが視察に訪れていたが、2本目の本塁打の後には思わず笑みがこぼれていた。
昨年までは一塁か外野を守ることが多かったが、今年からは捕手に再挑戦している。フットワークやハンドリングに改善の余地があるものの、地肩の強さは抜群だ。
8回には低い軌道の一直線のセカンド送球で盗塁を阻止し、そのタイムは実戦で2.00秒をマークした。プロでは打撃を生かして外野手と考えている球団が多そうだが、体の強さは申し分ないだけに、しっかり鍛えれば強打の捕手として大成する可能性を十分に秘めている。
今年の大学生野手のドラフト候補をみると、正木智也(慶応大)やブライト健太(上武大)、野口智哉(関西大)などの上位指名が有力視される一方、打者としてのスケールという点では、安田も彼らに決して劣らない。
地元・中日を筆頭に、強打者タイプの選手が欲しい球団は多い状況を考えると、想像よりも早い順位で名前を呼ばれる可能性もありそうだ。
☆記事提供:プロアマ野球研究所