指導者には元プロも…
「BBCスカイホークス」。よほどの野球ファンでも、このチーム名を知っている人は少ないだろう。
2014年3月に創設された、神奈川県大和市を本拠地とする社会人野球のクラブチームである。
一般的な硬式野球のクラブチームは、社会人野球を統括する日本野球連盟に所属しており、都市対抗野球や日本選手権、全日本クラブ選手権といった大会の出場を目指している。
これに対し、「BBCスカイホークス」は連盟には未所属。基本的に試合はオープン戦のみだ。
一度挫折した選手が再チャレンジのために入団してくることも多く、そこからステップアップを果たして国内の独立リーグや社会人企業チームに進む選手も増えている。
チームを率いる監督は、ヤクルトやオリックスで活躍した副島孔太氏。ほかにも、宇佐美康広コーチ(元ヤクルト)など、NPBを経験した指導者も所属している。
通信制の学校に通いながらプレーする選手が多いため、その利点を生かして練習は平日の午前中に大和スタジアムを使って行うことが多い。プレーを続けたくてもそのような機会に恵まれない選手にとっては、非常に恵まれた環境と言えるだろう。
最速148キロの17歳左腕
そんな中、今年の春先に「BBCスカイホークス」に所属するサウスポーがプロのスカウトの注目を集めているという噂が広がり始めた。その投手とは、現在17歳で、今年12月に18歳の誕生日を迎える渡辺一生投手である。
中学時代は大和ボーイズでプレー。高校進学後も1年から公式戦に出場していたが、2年秋に退学して昨年10月に「BBCスカイホークス」に入団。通信制の高校に転校してプレーを続けている。
渡辺の評判が広がるきっかけとなった試合が、4月に行われた東京大学とのオープン戦だ。
6回を投げて被安打はわずかに1。18個のアウトのうち、14個を三振で奪う圧巻の投球を披露。Bチームが相手とはいえ、ここまでのピッチングを見せるのは簡単ではない。
また、8月に行われた横浜国立大との試合でも5回をノーヒット、12奪三振の快投を見せ、ストレートの最速は147キロをマークしたという。
異色のチームから現れたドラフト候補は、果たしてどんな投手なのか…。9月下旬にチームの練習を取材した。
「まずはストレートの質を磨いて勝負したい」
練習の前、まずは鈴木大樹センター長に聞くと、渡辺は既にNPB2球団のテストを受験。どちらのテストでも自己最速の148キロをマークしたという。
2球団目のテストが終わってからはノースローで調整しているとのことだったが、取材に合わせてマウンドからのピッチングを披露してくれた。
久しぶりの投球ということもあって、本人は「良いとか悪いとか以前の問題」と納得のいかない表情を浮かべたが、それでもスピードガンの数字は最速140キロをマーク。この日、調整のために練習に参加していた独立リーグでプレーしている選手も「速い!対戦してみたい」と漏らすほどだった。
172センチ・72キロと投手としては小柄な部類に入るが、たくましい下半身を生かしたバネを感じるフォームが特徴的。テイクバックは少しコンパクトで打者から見るとボールの出所が見づらく、腕の振りの鋭さも申し分ない。特に高めのボールはホップするような勢いが感じられた。
NPB球団のテストでは2球団合計で9人の打者と対戦する機会があったが、安打は1本も許すことなく、2つの三振を奪ったという。これには本人も手応えを感じたようで、鈴木センター長も「大事なところで力を発揮できるのは良いものを持っている証拠だと思います」と話していた。
公式戦の無い環境からプロ入りを目指すというのは、モチベーション面を考えても難しいように感じるが、本人にそのことを聞くと意外な答えが返ってきた。
「自分は逆にこの環境が良かったと思います。まず、大会があるわけではないので、個人のレベルアップに集中できます。指導者やトレーナー、練習環境も充実していますし、高校でプレーしていた時の故障をしっかり治して、体の使い方も考えるようになり、今年に入ってからスピードもアップしました。スカウトの方にも、とにかく一度見てもらえれば興味を持ってもらえるという自信はありました」
ドラフト会議は10月11日に迫っているが、同世代の高校生投手についても映像などはチェックしており、そのうえで自分の持ち味も認識しているという。
「同じ高校生の左投手だと石田選手(=東海大相模・石田隼都)は選抜での実績がありますし、松浦選手(=大阪桐蔭・松浦慶斗)や木村選手(=北海・木村大成)は自分にはない体の大きさがあります。あと同じくらいのサイズの秋山選手(=二松学舎大付・秋山正雲)はピッチングの上手さがある。でも、ストレートに関しては決して負けてないのかなと思います。スピードもそうですが、数字がそれほど出てない日でも空振りをとることができるのは持ち味です。本格化からベテランになってから技巧派にはなれても、その逆にはなれないので、まずはストレートの質を磨いて勝負したい」
これまで独立リーグには多くの選手を輩出している「BBCスカイホークス」だが、NPB入りを果たした選手はまだいない。このような球界の受け皿を担うチームからNPB入りとなれば、野球界全体に与える影響も大きいはずだ。
10月11日、果たして渡辺と「BBCスカイホークス」の名前はアナウンスされるのか…。運命の時はもうすぐだ。
☆記事提供:プロアマ野球研究所