白球つれづれ2021~第41回・原巨人の停滞
10日付のあるスポーツ紙に「原監督 続投へ」の見出しが躍った。
巨人はこの日の広島戦も敗れて、今季ワーストタイの6連敗。首位を行くヤクルトには実に10.5ゲームの大差をつけられている。「勝負所」と位置付けた9月以降、実に8勝20敗(6分け)の惨状は目を覆うばかりだ。
接戦をモノに出来ない。打線はタイムリー欠乏症。チームは完全に空中分解の様相を呈している。本来なら、指揮官の責任を問われるシーズンだ。
原辰徳監督にとって今年は契約最終年。シーズン前には阿部慎之助二軍監督(現一軍作戦コーチ)への禅譲がまことしやかに語られたこともある。だが、球団内には時期尚早論があるとも聞く。加えて、現場の指揮だけでなく編成面も掌握する「全権監督」の力は年々肥大化して、おいそれとは退団といかないお家の事情もあるようだ。
シーズン成績が3位圏内であれば、ポストシーズンの戦いによって、まだ日本一の道も残されている。したがって現時点でその去就は原監督の決断次第だろうが、続投の可能性は極めて高いと言えるだろう。
目についた“悪手”
球界屈指の名将であることは間違いない。昨年までの14年間で9度のリーグ優勝に3度の日本一。しかし、今季に限っては首を傾げたくなる“悪手”が目についたのも確かである。
失速の象徴的な始まりは、9月3日からの阪神3連戦だった。そのわずか5日前、150日ぶりに首位を奪還したチームはここでライバルを叩いて独走の青写真を描いていた。
ところが、初戦の終盤に5失点で逆転負け。続く2戦目も守護神のチアゴ・ビエイラが打たれ、サヨナラ負けを喫して首位の座を明け渡す。
これだけなら勝負の結果と言えるが、3戦目は不可解な用兵で勝てる試合を引き分けてしまう。大量リードの中盤に正遊撃手の坂本勇人選手をベンチに下げて若林晃弘選手を起用するとエラー、さらに若林に代えて廣岡大志選手を守りにつかせたが、これもエラーで傷口を広げて勝てる試合を勝てなかった。試合後、原監督は「私のミス」と語っていたが、この3連戦を境にチームは勢いを失っていった。
迷走は8月下旬にも見てとれる。日本ハムで暴行事件を起こしたばかりの中田翔選手を無償トレードで獲得。強打の「5番・一塁手」で戦力アップのはずが、世間からは獲得の経緯について非難を浴び、肝心の中田も鳴かず飛ばず。チーム内に動揺が走ったとしてもおかしくない。
10月に入ると阿部二軍監督を一軍に昇格させて作戦コーチとするが、そんなテコ入れ策も空回り。一軍から三軍・育成組までを「ワンチーム」とする指揮官は、「予定通りの人事」と説明する。だが勝負所で作戦コーチが変更ではチームは落ち着かない。やること、なすことすべてにチグハグさが目立つ巨人の秋の陣だ。
ちぐはぐだった補強
エース・菅野智之投手のメジャー移籍騒動で始まった今季は誤算だらけであったことも事実である。紆余曲折の末に残留した菅野は度重なる故障で未だ、5勝止まり。FAで獲得した梶谷隆幸選手と井納翔一投手は期待を大きく裏切った。大砲役として獲得したジャスティン・スモーク選手が途中退団。慌てて補充したスコット・ハイネマン選手も戦力にならなかった。
チームの骨格をなすFA、外国人戦略の失敗に、近年はドラフトによる新人補強も思うに任せない。
昨年の平内龍太、一昨年の堀田賢慎両投手のドラフト1位指名は未だに一軍戦力になっていない。ヤクルトでは2年目の奥川恭伸投手が急成長。阪神は佐藤輝明、伊藤将司、中野拓夢と、活きのいいルーキーが暴れまくっているのとは、あまりに対照的だ。もっと、厳しく言うならこうした補強部門に原全権監督は深く関わってきた。まさに、自分の首を自分で絞めている格好とも言える。
もちろん、ドラフトで言えば1位指名だけがすべてではない。松原聖弥選手のように育成出身でレギュラーをつかむ選手もいる。クジ運の弱さは原監督の泣き所でもある。しかし、一方でFAやトレードだけに頼っていては、長期的なチーム強化にはつながらない。
近い将来、阿部コーチに監督の座を譲るにしても、3年、5年先に希望の持てるチーム作りは必要不可欠である。フロントに適任者がいないなら、原監督がGMに就けばいい。
故障者も多かったが、図らずもチームの病巣が浮き彫りになった。こんな時こそ大手術に踏み切るべきである。まずはシーズン終了を待って、原監督の総括に注目してみたい。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)