最速152キロを誇る注目左腕
なるほど…似ている。
YouTubeで「鈴木勇斗」と検索して見つけた動画には、確かに“カーショー”がいた。
本家よりサイズは小さくても、独特のリズムで右足を上げる2段モーションはそっくりだ。
さらに調べれば、出身大学になぞらえて“創カーショー”という異名もあるとか。
初対面となる取材対象者への予習をしながら、東京・八王子にある創価大学へ向かった。
13日、畑山俊二統括スカウトと担当の吉野誠スカウトから指名あいさつを受けたドラフト2位の鈴木勇斗は終始、顔をほころばせて言葉をつないだ。
「地元の友人、両親、指導者からおめでとうと、すごく喜んでもらえたので嬉しいです。1日でも早く阪神タイガースの一員として認められるように頑張りたいと思いました」
最速152キロを誇る先発型の即戦力左腕で、吉野スカウトも「緩急を使える。奥行き、幅のある投球をできる子。順位が順位ですし、ローテーションに入って投げてくれることを期待しています」と1年目からの躍動を願った。
悩める左腕を開眼させた“直感”
一通りテレビの代表質問、記者の囲み取材も落ち着いたところで、気になっていたことを聞いてみた。
「なぜ、カーショーに着目したんですか?」
鈴木の答えはこうだった。
「昨年(大学3年時)秋のリーグ戦前日に(フォームが)しっくりきてなくて、それで何か変えようと思った時にたまたまカーショー投手の動画を拝見して、自分の直感ですけど、これやってみようと思って」
要するに「直感」だった。
すぐにキャッチボールで試投すると、驚くほどに「しっくりきた」という。急造でも、これが悩める左腕を開眼させた。
「自分の中では2段モーションにすることによって投球のリズムが生まれて、球速だったり、コントロールだったりにつながっている。同じチームの左投手に聞かれるんですけど、教えても“全然分からない”と言われて。自分の感覚なので」
他者には理解できないオンリーワンの感覚をつかみ、プロへの道を切り開いた。
厳しい雪の寒さに耐えて、美しく咲く梅の花のように…
この日1日だけの取材でも、鈴木が逆境を力に変えてきたことがうかがえた。
今春はリーグ戦途中に部内で新型コロナウイルス感染者が出て辞退。「投げる機会が無くて、隅田投手(西武1位)だったり、同じ左投手が活躍しているのを見て、悔しい思いはあった」と明かす。
昨年の自粛期間には、サイズアップのウエートトレーニングだけでなく、ブリッジや倒立など身体感覚の向上にも地道に取り組んできた。
高校時代、甲子園を目指して冬の厳しい練習に耐える中、地元・鹿児島出身の偉人・西郷隆盛の詠んだ漢詩の一節「耐雪梅花麗」(雪に耐えて梅花麗し)に出会った。
「薩摩の人間なので、そういう方の言葉を大事にしたいというか、あの言葉に出会ってから高校も頑張れたので」
もちろん、この一度の取材で「鈴木勇斗」のすべてを理解したとは言わないが、背中に声援を送りたくなる投手であることだけは知ることができた。
「高校の時に投げられなかったマウンド」という甲子園で、梅花のごとく麗しく咲き誇る姿を見たい。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)