“便利屋”から最多勝争いへ!
ひとつひとつの変化が、最多勝争いにつながっている。
広島・九里亜蓮投手(30)が今季ここまで積み上げた勝ち星は「12」。阪神・青柳晃洋と並んで、リーグトップに立つ。
かつては、先発と救援を行き来して“便利屋”と呼ばれた。
そんな時期も乗り越え、昨季初めてシーズン規定投球回数に到達。先発としての立ち位置を確立して迎えた今季には、自身初のタイトル獲得が手に届くところにまで来た。
この飛躍を読み解くには、「縦の動き」が大切なキーワードになっている。
助っ人から得た新発見
ひとつは、グラブの型。5本の指をそれぞれの穴に収めるのではなく、左端のスポットに薬指と小指を2本同時に入れられる特殊な型を昨季から採用している。
「左端に指を2本入れると、グラブをより縦に折ることができる。左腕を縦気味に動かすのが自分のフォームなので、このグラブの方が体をより縦に使える感覚があった」
この“2本指グラブ”のきっかけを与えてくれたのは、昨季途中まで広島に在籍し、シーズン途中で楽天にトレード移籍したDJ・ジョンソンだった。
大リーグを経て、今季から楽天に在籍する田中将大らも採用するのが同型。DJは「米国で使っている人は結構多いよ」と話していたという。
DJのグラブを練習で使用すると、自身の投球フォームにも合うと実感した。自分用に発注し直し、今季も継続して使用している。
「意識をしないと言えば嘘になる」
もうひとつの変化は、「投球フォーム」にある。
昨オフは手塚一志氏主宰の『上達屋』に週3回程度通った。同氏は日本ハムやオリックスなどの複数球団でコンディショニングコーチを務めた経歴の持ち主で、かつては黒田博樹氏、現在は大瀬良大地らが師事するパフォーマンス・コーディネーターだ。
『上達屋』は広島では広く知られた存在。九里も昨オフから通うようになった。そこで改めて投球フォームを分析すると、自らの投球動作が理想的とされる縦回転ではなく、横回転の要素が強いことが分かった。
「体の連動性の部分は、まだまだ下手くそだと思うし、そういう所を向上させるために行かせていただいた。どうしても腰や身体の回転が横回転になってしまう部分がある。しっかりと縦回転として使えるように意識している」
身体を縦に動かしやすいグラブを使い、今季からは縦回転の投球フォームをより強く意識するようにもなった。
飛躍した昨季から、縦回転のきれいな直球で押し込めるようになったのは、身体を縦に使えるようになったことと無関係ではないだろう。
多彩な変化球を操るのが持ち味ながら、真っすぐが配球の軸となっている。直球の出来が最多勝争いの命運も左右しそうだ。
「(最多勝を)意識をしないと言えば嘘になるし、獲りたい気持ちはあるけど、1試合1試合任されたところで自分の投球をしていくだけだと思う。投げる試合に向けて、しっかりと準備をしていきたい」
変化を恐れずに研究し続けてきた成果が、最多勝に向けたラストスパートを後押ししている。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)