白球つれづれ2021~第43回・大混戦のペナントレース終盤戦
ペナントレースは両リーグともに史上稀に見る大混戦となっている。
セ・リーグはヤクルトと阪神。パ・リーグはロッテとオリックス。中でもヤクルトとオリックスが優勝すれば、共に前年の最下位チーム同士で「大下剋上」のドラマが完結する。いずれにせよ、今週中には決着を見るはずだ。
今季は新人たちの活躍も際立っている。新人王争いの行方にも例年以上に目が離せない。
パ・リーグは2年目の宮城大弥投手(オリックス)がほぼタイトルを手中に収めたと言っていい。13勝4敗の好成績でチーム躍進の立役者の一人となった。ライバルの早川隆久(楽天)、伊藤大海(日本ハム)の両投手が2ケタ勝利に足踏みを続けたため“当確ランプ”が灯っている。
どうなる!?セ界の新人王
これに対して、未だに混沌としているのがセ・リーグのNo.1ルーキーだ。
シーズン当初、猛ダッシュを決めたのは阪神の佐藤輝明選手だった。
打てばホームランの無双状態で5月には月間MVP、8月には田淵幸一の持つ22本塁打を更新して球団新人記録を塗り替える。このペースなら40本をクリアして新人王どころか、シーズンMVPまで狙える勢いだった。ところが秋口から大失速。59打席無安打の不振で二軍暮らしまで味わった。
これに対して、コンスタントに活躍してきたのが栗林良吏(広島)、牧秀悟(DeNA)、中野拓夢、伊藤将司(共に阪神)の4選手。さらに終盤に存在価値を発揮しだしたのがヤクルトの2年目・奥川恭伸投手だ。
阪神大躍進を佐藤と共に支えた中野はチームのウィークポイントであった遊撃のレギュラーをつかみ、特に30盗塁(25日現在、以下同じ)はリーグトップで盗塁王をほぼ手中にしている。伊藤は両リーグの新人で10勝一番乗りは見事だ。目下、9勝(4敗)の奥川は交流戦後から急成長。残り試合でチームが優勝、自身も2ケタ勝利ならインパクトは強い。
栗林と牧の一騎討ち!?
そんな中でもトータルで頭一つ抜けているのが栗林と牧である。しかも、投手と打者で判断基準が異なる上に、ふたりとも球史に残る働きを見せているのだから雌雄を決するのは難しい。
東京五輪で金メダルを獲得した侍ジャパンのクローザーを任されたのが栗林。新人とは思えぬ度胸と制球力で見事に大役を果たした。シーズンも35セーブ、防御率は驚異の「0.72」と、非の打ち所がない。
一方の牧は、ここへ来て評価がうなぎ上りである。
8月25日の阪神戦で新人初のサイクル安打を記録すると、9月には球団新人記録を塗り替えるシーズン118安打。10月にはタイラー・オースティン選手の故障離脱に伴い4番を任されながら、月間打率は4割を超えている。
打率は「.308」に22本塁打。シーズン終了時に3割、20本塁打は過去に長嶋茂雄(巨人)、石毛宏典、清原和博(共に西武)の3人しかいない大記録だ。これだけでも新人王の価値はある。
過去にも新人大豊作イヤーが
一生に一度の新人王は、全国の新聞、通信、放送各社で5年以上プロ野球を担当している記者による投票で決定する。
過去にも新人大豊作の年はあり、その場合は新人王と特別表彰に分かれている。直近なら昨年のセ・リーグは10勝をあげた森下暢仁投手(広島)が受賞して、9勝の戸郷翔征投手(巨人)が特別表彰にまわった。
特別表彰の第1号は日本ハムの西崎幸広投手で、1987年に新人王となった阿波野秀幸投手(近鉄)と15勝で並んだが、投球内容などを加味されて次点に甘んじた。
最大の激戦は1998年のセ・リーグ。14勝をあげた川上憲伸(中日)以外にも、3割・19本塁打の高橋由伸(巨人)、打率.327を残した坪井智哉(阪神)、9勝の小林幹英各選手が候補に上り、川上に軍配。他の3選手に特別賞が贈られた。
賞の重みを持たせる意味でも新人王は各リーグ一人ずつとしてきたのだろうが、投手は先発完投ばかりの時代と大きく変化している。セットアッパーやクローザーと分業制は進む。打者もパ・リーグでは指名打者が重要な役割を担っている。
果たして35セーブの栗林と、3割・20本塁打の牧に優劣をつける物差しなどあるのだろうか?
今年ほどルーキーの活躍した年は近年では珍しい。こんなシーズンなら、せめて投打に分けて新人王を選出してもいい。多くのスター誕生は球界の願いでもある。過去の踏襲にとらわれず、魅力ある変革なら反対する者もいないだろう。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)