コラム 2021.11.02. 07:08

「さようなら、松坂大輔」…“平成の怪物”の軌跡を名珍場面で振り返る!

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「自信が確信に変わった」日…。 (C) Kyodo News

10月19日、松坂大輔の現役最後の日


 3月26日に開幕したプロ野球の2021年シーズンも、11月1日をもってレギュラーシーズンの全日程が終了。

 あとは各リーグの代表チームを決するクライマックスシリーズと、日本一の座をかけた日本シリーズの戦いを残すのみとなった。




 一方で、シーズン終了前の恒例行事といえば、今季限りでユニフォームを脱ぐことを決断した選手による「引退試合」がある。

 中でも大きな話題を呼んだラストシーンのひとつといえば、“平成の怪物”こと松坂大輔の引退試合だろう。

 10月19日に行われた西武-日本ハムの一戦で、松坂大輔が先発登板。対するは横浜高校の後輩・近藤健介。日米23年で通算377試合目のマウンドは、計5球で終了。最速118キロ、結果は四球だったが、“背番号18”は笑顔でマウンドを降りた。



「あれぐらいで怒るとは…」


 今回は数々の伝説を作った松坂大輔の、NPB時代の名場面や名勝負を振り返ってみたい。

 まずはプロデビュー戦。いきなり怪物ぶりを発揮して野球ファンに大きな衝撃を与えたのが、1999年4月7日の日本ハム戦だった。


 開幕4戦目で迎えたプロ初登板。立ち上がり、順調に二死を奪った右腕は、つづく片岡篤史をカウント2ボール・2ストライクから外角高めの直球で空振り三振に仕留める。

 その直後、スコアボードには「155キロ」の表示が。挨拶代わりに自己最速を叩き出し、4万4000人の大観衆の度肝を抜いた。

 この日2三振を奪われた片岡は、「久しぶりに打席でゾクゾクするような感じを覚えた」と振り返っている。


 また、5回には顔面付近の投球に怒ったマイカ・フランクリンがバットを持ってマウンドに詰め寄るような仕草も…。

 ヒヤッとするようなシーンであるが、この時も松坂は「あれぐらいで怒るとは」と動じるどころか睨み返すように応戦。その後の打席でも臆することなく内角を攻め続けた。


 「1球1球を大切に」と、気が付けば6回一死まで日本ハム打線を無安打に封じる快投。8回を投げて、失点は小笠原道大に浴びた一発による2点のみだった。

 これにはプロ初勝利を見届けた東尾修監督も、「この打者を抑えれば、という嗅覚を持っている。想像以上のピッチングだった」と思わず唸った。


「リベンジします」


 つづいて、ロッテのエース・黒木知宏への“リベンジ”が話題になったのが、1999年4月27日のロッテ戦だ。


 伏線は1週前・4月21日のロッテ戦。この日、松坂は前年リーグ最多勝の黒木と投げ合った末に0-2で敗戦。すると、「黒木さんには2度と負けない。リベンジします」と宣言。わずか6日後に再戦が実現した。

 初めての中5日登板ながら、前回登板で決勝ソロを許した初芝清を4打数無安打・2三振に抑えるなど、「途中から完封を意識して投げた」と気合満点。

 1-0で迎えた9回二死、150キロの速球でフランク・ボーリックを中飛に打ち取ると、両手でガッツポーズを見せた。


 松坂と同じ被安打3で敗れた黒木は「末が恐ろしいよ。早めにタイトル獲っとかないと、そのうち総なめされるかもね」と脱帽。

 ちなみに、「リベンジ」はこの年の新語・流行語大賞で年間大賞にも選ばれている。


「イチローさんをねじ伏せたい」


 1999年5月16日のオリックス戦では、イチローとの夢の対決が実現した。

 前年12月の西武入団発表の席で「イチローさんを力でねじ伏せたい」と豪語していた松坂。対するイチローも、「持てるものを全部出してほしい。僕もそうする」とキッパリ。ファンもこの日が来るのを心待ちにしていたのだ。


 初回、二死走者なしで迎えた初対決は、カウント2ボール・2ストライクから外角高め147キロ速球で空振り三振。イチローは「速かった」と呆然とするばかりだった。

 つづく3回の第2打席は、フルカウントから外角低めのスライダーで見逃し三振。前日までの段階で開幕から138打席で9三振しかしていないイチローが、初めて喫した2打席連続三振だった。

 さらに6回の第3打席目でも、5球続けて直球を投げたあと、沈むスライダーで空振り三振。天才打者を完全に沈黙させた松坂は、「今まで自信が持てなかった。でも、今日で自信が確信に変わった」の名言を残している。

 両者の日本での通算対戦成績は、34打数8安打の打率.235に1本塁打の4打点。松坂に軍配が上がっている。


「最初で最後の日本一」


 鳴り物入りでプロ入り後も、順調にキャリアを歩んで行った松坂。ところが、なかなか縁がなかったのが“日本シリーズ”での勝ち星だった。

 「大舞台に弱い男」…。そんなレッテルも貼られたこともあったが、待望のシリーズ初勝利を掴んだのが2004年の第6戦、10月25日の中日戦だ。


 2002年に巨人に1敗。中日にも第2戦で8失点KOされ、シリーズ2連敗中でこの日を迎えた右腕。

 2勝3敗と王手をかけられた状態で迎えたこの試合は、立ち上がりから変化球主体に攻め、速球狙いの中日打線を翻弄。4回に制球を乱し、1-2と逆転を許したものの、5回以降は無安打に抑え、和田一浩の2打席連続弾を呼び込んだ。

 4-2で迎えた8回二死一・二塁のピンチも、この日まで9打点の“シリーズ男”谷繫元信をカットボールで二ゴロに打ち取り、守護神・豊田清との継投で逃げ切り。日本一に逆王手をかけた。


 「今日はチームを勝たせるという最低限のことができて良かった。明日ももちろん投げます」と宣言した松坂は、翌日の第7戦でも8回からリリーフとしてマウンドに登り、連日勝利に貢献。これが松坂にとって「最初で最後の日本一」となった。


中日時代にはバットでも魅せた


 西武での戦いを終えた松坂は、夢だったメジャーリーグに挑戦。2014年にアメリカでの戦いにピリオドを打つと、2015年からはソフトバンクで日本球界復帰を果たした。

 しかし、待っていたのはケガとの戦い。故障続きで目立った活躍もできぬままソフトバンクを退団することとなったが、入団テストを経て契約を勝ち取った中日で再び輝きを放つ。


 11試合の登板で6勝4敗、オフにはカムバック賞にも輝いた2018年。中でも印象的な活躍を見せたのが、5月20日の阪神戦だろう。

 この日の松坂は要所でカットボールを駆使し、6回を3安打・1失点でシーズン2勝目。自身も「気持ちいい。状態は良くなかったけど、ゲームを作れた」と満足そうに振り返っている。

 特筆すべきは、投球以上に輝いた打撃センスの良さだ。4回に才木浩人の142キロをライナーで左前に運ぶと、5回にも左前安打で追加点のお膳立て。西武時代の2006年6月9日・阪神戦で放った2ラン以来の安打は、プロ20年目で初めて記録したマルチ安打でもあった。


 思えば、2000年には代打で2点適時打を放ったこともある“強打者”であり、なかなかセ・リーグのチームと縁がなかっただけで、元々打撃には積極的なタイプ。

 「打者を期待されて(森繁和)監督に獲ってもらったから。やっと打てて良かった」

 トレードマークでもある笑顔を見せながら、冗談まじりにヒーロー談話を口にした。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)


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