岡本と共に歩んだ2021年シーズン
東京ドームは岡本和真のためにあったのか?
2021年シーズン、巨人では76、77年の王貞治以来となる、2年連続の本塁打と打点の二冠を獲得した背番号25に、またひとつ勲章が加わった。今季、本拠地でチームトップの19本塁打をかっ飛ばし、11月1日に自身初の東京ドームMVPに輝いたのである。
不動の「4番・三塁」でチーム唯一の143試合フル出場を果たすと、打率.265、39本塁打、113打点、OPS.871。開幕から故障者が続出、新外国人選手も立て続けに帰国する異常事態に見舞われたチームにおいて、ぶっちぎりトップの592打席に立った(2位は坂本の487打席)。
いまや巨人の大黒柱であり、同時に21年は岡本依存ともいえる打線だったわけだ。だから、岡本のバットはそのままチームの低迷に直結する。9月は月間打率.242、原政権ワーストタイの10連敗を喫した10月も打率.207にわずか1本塁打と急降下。ペナント終盤の勝負どころで完全に息切れしてしまい、覇気のない凡退を繰り返した。
右の和製大砲として球界屈指のパワーを誇りながらも、一方で好不調の波が激しく、スランプも長い。当然、課題はある。だが、まだ25歳の若さにもかかわらず、4年連続で30発90打点をクリア。高卒7年目のドラ1スラッガーとしては、理想的な成長曲線であり成功例だろう。それでも、ときにファンは贅沢だ。
“俺らの四番”を誇ると同時に、鈴木誠也(広島)の安定感や村上宗隆(ヤクルト)の若きリーダーシップを見ていると終盤の岡本に物足りなさを感じたのも事実である。タイプ的に感情を露わにチームの士気を高めるプレースタイルではないが、背番号25が下を向けばチーム全体が、さらには東京ドームの雰囲気も重くなってしまう。
そして、ふとある選手を思い出した。誰よりも結果を残しながら、観客とワリカンすべき感情がいまいち見えず、「なにか物足りない」とファンに抱かせる若き巨人の4番打者。そう、気がつけば今の岡本は現役時代の「4番サード原辰徳」と非常に似た立ち位置だ。そのあたりも“若大将”を継承しちゃったのか……じゃなくて、だからこそ今回のポストシーズンは背番号25にとって重要なビッグイベントになる。
主力の故障禍に悩まされる原・巨人
今季ペナント終盤の絶不調に加え、昨年のソフトバンクとの日本シリーズでは13打数1安打の打率.077、本塁打と打点なしという惨惨たる成績に終わった。19年のCSファイナルでは阪神相手に打率.533、3本塁打、7打点の大爆発で、セ・リーグ最年少のMVPにも輝いているだけに、同じ阪神との戦いから始まる今CSのキーマンである。
岡本和真が打てば勝てるし、打たなければ負ける。シンプルだが、それが令和の巨人軍のリアルである。……しかし、だ。ここにきて二代目若大将は左脇腹違和感で別メニュー調整が報じられた。仮に出場できない場合はとてつもなく大きな痛手となるが、果たして大黒柱は6日の初戦に間に合うのだろうか?
ならば、こんなときこそ頼りたいのはキャプテン坂本勇人だが、背番号6は10月16日の広島戦で右手首付近に強烈な死球を受けて、24日のレギュラーシーズン最終戦は欠場している。今季の坂本は、甲子園の阪神戦13試合で打率.341、4本塁打と生まれ育った地元に近い敵地を得意にしているだけに、その回復具合が注目される。
やはりペナントに引き続き主力の故障禍に悩まされる、手負いの原・巨人。リーグ連覇を達成した過去2年(昨年はコロナ禍で開幕が遅れセ・リーグCSは開催されず)とは異なり、首位に11ゲームも離された勝率5割に届かない3位からのCS参戦に加え、坂本と岡本の二枚看板が万全の状態ではない非常事態だ。
頼りにしたいあの男! 苦戦PSでの活躍に期待
そうなると、やはりあの男に期待したい。丸佳浩である。岡本と同じく、昨年の日本シリーズでは15打数2安打の打率.133、本塁打・打点ともになし。19年シリーズも13打数1安打の打率.077、1打点に終わり、2年連続4連敗の一因となってしまった背番号8。巨人移籍3年目の今季は、6月に打撃不振で二軍落ちの屈辱も味わったが、10月だけで6本塁打の固め打ち。終わってみれば打率.265、23本塁打、55打点、OPS.860。本塁打とOPSは岡本に次ぐチーム第2位という数字でまとめた。
広島時代は2年連続シーズンMVP、巨人移籍後も2球団を股にかけた“ひとり5連覇”を達成。ベストナイン6度、ゴールデングラブ賞7度の実績を誇り、143試合トータルで見たら、いまだリーグ屈指の外野手だろう。しかし、過去のCS通算打率.247、日本シリーズ通算打率.189という成績からも“逆シリーズ男”化してしまうことが多々あり、短期決戦は苦手としていた印象だ。
ただ、仮に原・巨人が甲子園で阪神を敗れば、優勝球団ヤクルトに挑戦するCSファイナルが待っている。今季の丸はヤクルト戦で打率.368、7本塁打、17打点と実に年間本塁打数の約3分の1をこのカードで放つ燕キラーぶりを発揮。さらに最終決戦の舞台となる神宮球場では打率.429と飛び抜けて高い。なお、岡本和真もヤクルト戦に強く、カード別本塁打数で唯一の2ケタ超えとなる10本塁打を記録しており、神宮でも打率.354。坂本もカード別最多タイの5本塁打と相性は悪くない。
今季は誰かが故障で欠けたり、入れ替わりで長いスランプに陥ったりと原監督を悩ませたが、果たしてポストシーズンの土壇場で、“サカマルオカ”の三役揃い踏みはなるのか? 当たり前すぎる結論だが、坂本・丸・岡本が試合に出場できるコンディションで、それぞれの仕事をすればリーグ3位からの下克上日本シリーズ進出もあながち夢物語ではないだろう。
ファーストステージの阪神戦で菅野智之や山口俊が登板して勝ち抜けたと仮定すると、ファイナルでの先発が予想されるメルセデス、戸郷翔征、高橋優貴ら投手陣はそれぞれ対ヤクルトの防御率5点台前後と苦手にしているだけに、ある程度の失点は覚悟して打ち勝つしかない。こんなときこそ、レギュラーシーズン中は背番号25に頼りっきりだった先輩野手陣に奮起を促したいものである。
そして、もうひとり。昨年の日本シリーズで9打数ノーヒットに終わったあの男の華麗なる逆襲にも注目したい。
今季限りでユニフォームを脱ぐ背番号9。39歳、亀井善行だ。
球団2位タイの通算7本ものサヨナラ本塁打を放ってきた、“困ったときの亀ちゃん”のラストダンスである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)