2021.11.07 14:00 | ||||
阪神タイガース | 2 | 終了 | 4 | 読売ジャイアンツ |
甲子園 |
白球つれづれ2021~第45回・猛虎復活への道のり
敗北の味はいつだってほろ苦い。
阪神がクライマックスシリーズのファーストステージで、巨人に連敗して終戦を迎えた。シーズンを貯金21、優勝したヤクルトとは、わずか5厘差の阪神と借金1を抱え、やっとポストシーズンに進出した巨人。しかも戦場は虎の本拠地・甲子園だ。しかし、短期決戦の現実は矢野・阪神のもろさと不甲斐なさだけが浮き彫りになった。「オレ自身の成長もしていかないとダメ」指揮官は、こううめくしかなかった。
虎党の淡い夢が散った今、厳しい現実が待ち受けている。来季こそ、優勝を誓うチームには、このオフに乗り越えるべき課題がある。大きく分けて3つの宿題と言っていいだろう。
最大の課題克服ならず…
短期決戦を勝ち抜く必勝法のひとつに「試合の流れを渡さず、自軍に引き寄せる」という鉄則がある。原・巨人が第1戦では菅野智之投手の好投で隙を与えない。5回無死一塁の場面では小林誠司捕手が阪神のヒットエンドラン策を見破ってウエストボールを要求、ジェフリー・マルテ選手を二塁上で刺した。
第2戦では試合を優位に進めていた阪神が3回に中野拓夢、8回には大山悠輔選手の失策から流れを失っていった。4失点も自責ゼロ。これでは勝てないのも当然だ。
シーズン86失策はリーグワースト。付け加えるなら4年連続12球団ワーストの不名誉な記録は今年も解消できなかった。
今春のキャンプには元巨人の川相昌弘氏を臨時コーチとして招き、バントや守備の強化を打ち出している。だが、結果から見れば、それは「付け焼刃」の印象を拭えない。本当に改革の重要性を認識するなら、川相氏を1年間専任コーチとして迎えるなり、練習法を抜本的に変更するなどの思い切った手を打たない限り解決策は見出せないだろう。
矢野・阪神の特徴の一つに「イケイケの野球」が挙げられる。得点の場面では監督自らガッツポーズでベンチを盛り上げる。ポストシーズンを前にしても「うちの野球に徹する」と語っている。しかし、勢い重視のイケイケ野球は、相手にペースを握られた時にもろさも同居している。守備を含めた手堅い戦法が短期決戦ほど生きてくることを学ばなければならない。
チームの屋台骨がどうなるか?!
ふたつ目は主力選手の流失を防げるか? これこそが今オフのチームに課せられた大きなポイントである。
最も注目したいのは絶対的守護神であるロベルト・スアレス投手の去就だ。
今季も1勝42セーブで2年連続セーブ王を手に入した同投手にはメジャーからも熱視線が送られている。昨オフに2年契約を締結しているが、契約継続か拒否かの選択権はスアレス側が持っているため、事態は流動的と言われている。仮にメジャー流失となればチームの屋台骨が揺らぐことになる。ここは何としても残留を勝ち取らなければならない。
また、ジェリー・サンズ選手の退団が確定的で、一部報道によれば主砲のマルテの動向にもソフトバンクが調査を開始したという情報がある。
さらに今オフにFA権を取得した梅野隆太郎選手の動きにも目が離せない。
東京五輪の金メダリストで主戦捕手の梅野が先発マスクを坂本誠志郎捕手に譲ったのはペナント終盤から。チーム内のデータ分析や体調面を考慮して坂本の堅実さや意外性のあるリードを首脳陣が評価したのだろうが、“レギュラーはく奪”に近い扱いに梅野の胸中は穏やかではなかっただろう。
今後の去就については「これからじっくり考えたい」としている梅野だが、FAに手を上げれば他球団による争奪戦も予想される。外国人も含めて、まさにチームの骨格が揺らぐのか、フロントの手腕が問われる。
安定した成績を残し続けるためには…
そして、最後の強化ポイントは佐藤輝明選手の更なる成長とクリーンアップ固定化の問題である。
今季の阪神は佐藤を中心に中野、伊藤将司投手ら新人選手の活躍が戦力充実につながった。中でも前半戦のMVPが佐藤だったことは間違いない。
もっとも、夏場以降は低迷して、59打席ノーヒットや二軍落ちを経験して輝きは失われていった。だが、クリーンアップを固定できない悩みはシーズンを通して大きな課題として残った。
相手チームの徹底マークに遭い、自らも焦りからボール球にも手を出して崩れていった。2年目を迎える来季は、さらに各球団から厳しい攻めが予想される。しかし、過去のスター選手もこうした包囲網を切り裂いて中心選手へと飛躍している。大山のコンスタントな活躍も必要だが、40本塁打の期待を抱かせる佐藤が3番か4番に定着した時、チームはもうワンランク上の強豪に上り詰めるはずだ。
7割の手応えと3割の課題。ペナントレースを勝ち取り、日本一の座を射止めるためには、さらなる宿題が残されている。85年の日本シリーズ・チャンピオンから36年の歳月がたった。そろそろ本物の「猛虎」が見たいものである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)