コラム 2021.11.10. 06:59

経験豊富な原監督も思わずビックリ? 巨人のCS名場面・珍場面をふり返る

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ファイナルでも原監督のタクトが冴えわたるのか (C) Kyodo News

クライマックスシリーズの名場面・珍場面


 プロ野球の2021年シーズンもいよいよ大詰め。

 10日からはクライマックスシリーズのファイナルステージが幕を開け、各リーグの日本シリーズ出場チームが決する。




 2004年から2006年までパ・リーグで実施された「プレーオフ」にはじまり、2007年からはセ・パ両リーグで「クライマックスシリーズ」がスタート。絶対に負けられない短期決戦の中で、過去にはさまざまな名場面や珍場面が誕生した。

 そこで今回も、日本プロ野球の“ポストシーズン”に絞っていろいろな切り口からエピソードをご紹介。

 ここでは、リーグ3位からの下剋上を目指し、10日から王者・ヤクルトとの戦いに挑む巨人のCS名・珍場面をピックアップしてみた。



代打の「切り札」を投入のはずが…?


 まずは勝負の一手・代打が告げられた直後、原監督が思わず「話が違う!」と球審に噛みつく場面が見られたのが、2007年のセ・リーグファイナルステージ、巨人-中日の第1戦だ。


 1-4と劣勢の巨人は6回、二岡智宏と阿部慎之助の安打からルイス・ゴンザレスの遊ゴロで1点を返し、なおも二死一塁。次打者は投手の西村健太朗というところで、原監督は「代打・大道(典嘉)」を告げた。一発が出れば同点という場面で、通算11本の代打本塁打を記録している“切り札”のひと振りに賭けたのだ。

 ところがその直後、スコアボードにはなぜか大道ではなく木村拓也の名前が表示されるではないか。当然、原監督は納得がいかない。口角泡を飛ばして笠原昌春球審に抗議したが、あえなく却下された。


 実はこれ、原監督が代打を告げた際にネクストサークルの木村を指差しており、これを見た笠原球審が「代打・木村」と認定したのが真相だった。

 「監督が指を差して交代を告げたので、レギュラーシーズンと同じように(対応した)」(笠原球審)。

 そういう取り決めがあれば、CSだけ特例を認めるわけにいかない。そのまま打席に入った木村は中飛に倒れ、3アウトチェンジ。追加点のチャンスを逃した巨人は2-5で敗れ、痛い黒星スタートとなった。


 試合後、原監督は余計なジェスチャーがアダとなったことを後悔したのか、「笠原さんは将来がある非常に優秀な審判だから。コメントはそれだけでいいでしょう」と多くを語らなかった。


珍プレーが続出した2012年の中日戦


 “グラブトス”の珍プレーをめぐって判定で揉めたのが、2012年のセ・リーグファイナルステージ、巨人-中日の第2戦だ。


 巨人の先発デニス・ホールトンは1回表、先頭打者・大島洋平を投ゴロに打ち取った。まず一死と思われたが、なんとホールトンのグラブの網の部分にボールが引っ掛かり、抜けなくなってしまった。

 慌てて一塁に向かって走ったが、俊足の大島相手では間に合いそうにない。切羽詰まったホールトンは次の瞬間、一塁手の亀井善行に向かって、グラブごとトスした。

 亀井がグラブをキャッチしたとき、大島はまだ一塁ベースの手前。タイミングは明らかにアウトだったが、橘高淳一塁塁審は「セーフ!」のコール。原監督がベンチを飛び出し、激しく抗議したが、亀井が脇の下でグラブを抱え込んでいたことから、「グラブは捕ったが、正規の捕球をしたとは見なされない」と却下された(記録は内野安打)。


 それでも、この回は何とか無失点で切り抜けたホールトンだったが、1-0とリードの2回にまたやらかしてしまう。

 無死満塁のピンチに、伊藤凖規を投ゴロに打ち取りながら、打球が本塁近くでバウンドして転がってきたことからファウルと勘違い。

 しかも、インプレー中なのに「自打球だ」と抗議している間に同点にされてしまう。直後、大島の二ゴロで逆転を許し、チームも2-5で第1戦に続いて連敗。相次ぐ珍プレーに、原監督も「あれ(自打球)は自分で決めるべきプレーではない」と怒り心頭だった。


“神の足”鈴木尚広がまさかの牽制アウト


 盗塁成功率10割の“足のスペシャリスト”が、プロ9年間でけん制アウトゼロの投手に刺される珍事が起きたのが、2016年のセ・リーグファーストステージ、巨人-DeNAの第3戦だ。


 3-3の同点で迎えた9回裏、巨人は先頭の村田修一が遊撃内野安打で出塁。4回に左膝に死球を受け、担架で運ばれたにもかかわらず、治療後グラウンドに戻ってきた“不屈の男”が膝の痛みをこらえ、執念の激走で勝ち取ったチャンスだった。

 無死一塁。高橋由伸監督は満を持して鈴木尚広を代走に送る。シーズンでは10度盗塁を試みていずれも成功させた“神の足”。ここはバッチリ二盗を決めて、無死二塁で阿部慎之介、長野久義のバットでサヨナラ勝ち、そしてファイナルステージ進出を狙う作戦だった。

 ところが、阿部のカウント1ボール・1ストライクから田中健二朗が一塁に素早くけん制球を投げると、スタートを切りかけていた鈴木は帰塁できず、まさかのタッチアウト。

 しかも、これが田中にとってプロ9年目で初めて記録したけん制アウトとあって、まさに「上手の手から水が漏る」…否、「上手の“足”から水が漏る」ような痛恨の走塁ミスだった。


 「やっちゃったなと思いました。どうやって上向こうかなという感じでした」と恥じ入った鈴木は、一塁ベースに顔を埋めたまま、しばらく起き上がれなかった。

 こうしてサヨナラのチャンスを逃した巨人は延長11回の末、3-4で敗れてファーストステージ敗退。それから3日後、鈴木も「心技体どれかひとつ欠けたら勝負できない」と“心の緩み”を理由に突然現役引退を発表した。

 通算228盗塁の韋駄天男は「なかなかしないことを最後にしてしまった。でも、鈴木尚広らしい」と現役最後のプレーを振り返っている。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)


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