第2回:選ぶのはどちらの挑戦か!?
「悔しい!俺は悔しいよ」。
11月8日、楽天・田中将大投手が自身のツイッターアカウントで発信した言葉だ。
前日のクライマックスシリーズ・ファーストステージ、楽天はロッテに1敗1分けで終戦を迎えた。第3戦に先発予定だった田中に出番は回って来なかった。
チームの敗戦。戦力にもなれなかったポストシーズン。悔しさの原因はそこに尽きるのだろうが、田中にとっては1年間を通して悔しさが募るシーズンだった。
8年ぶりの古巣復帰。史上最高額となる年俸9億円に球団の期待の大きさが表れている。まさに「三顧の礼」を持って迎えてもらった。しかし、現実は厳しかった。
4勝9敗。防御率3.01はリーグ5位で、先発投手の大きな指標となるクオリティースタート(6イニング以上投げて自責は3点以下)は23試合の登板で17度を数える(QS率は73.9%)。それでも、あまりに味方の援護に恵まれなかった。残った数字は自己ワーストの白星である。
4勝目を挙げたのは7月13日対ソフトバンク戦のこと。以来、後半戦は10戦で0勝4敗。田中自身の最終登板となった10月25日のオリックス戦でも8回を自責点1と好投しながらの敗戦投手なのだから不運という一言だけでは片づけられない。
「打線の巡り合わせも悪かったが、田中が投げる日は何とか勝たせたい、打たなければと思うあまりに空回りしていた感じ」と、あるチーム関係者が語る。加えて、チーム本塁打108本はリーグ5位のピストル打線。打点王こそ島内宏明選手が獲得したが、前年本塁打王の浅村栄斗選手の不発や外国人選手が機能せずに大エースを見殺しにするケースが目立った。
それでも、打線の援護がなければ耐えて、勝機を見出すのがこれまでの田中の姿だっただけに、消化不良の1年となった。
迫る“決断”のとき
楽天とは2年契約で来季は2年目。クライマックス終戦と同時に各マスコミでは田中の去就について報じているが、「残留を基本線に球団と話し合いに入る」と微妙な表現が目につく。その原因は国内復帰時の発言と契約内容にある。
今年1月30日に行われた入団会見で田中は、楽天復帰を「本気で考え、決して腰掛けじゃない」と語る一方で、MLBへの熱い思いも隠さず、「正直まだプレーしたい」とも明かしている。2年契約の中身も2年目の選択権は田中が持ち、その時点で球団と話し合う事が確認されている。つまり残るも去るも田中次第ということだ。
さらに、ここへ来て古巣ヤンキースの地元では「マー君コール」がわきおこっている。米球界は目下、GM会議が開催中で、各球団ともにチーム編成に追われている。そんな中、ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMが地元映像メディアの質問に対して田中復帰の可能性にも言及している。
「マーケットで獲得可能なすべてにおいて我々は検討を進めていく。現有戦力との比較、人件費の柔軟性などを視野に入れながら、いかにチームにフィットし、向上させるかだ」と、田中の個人名こそ出さなかったが、否定もしなかった。これには早速、ヤンキースファンから「マサヒロをわが家へ帰そうよ」「マサの存在はヤンキースの投手力を安定させる」といった“ラブコール”が送られた。
こんな背景にはヤンキースを取り巻く危機感がある。今季もワイルドカードに進出したが、レッドソックスにあっさりと敗退。松井秀喜氏が在籍した2009年以降ワールドシリーズ出場から遠ざかっている。
変わらないタナカへの評価
昨年オフ、投手スタッフの大刷新を狙ったヤ軍は再契約を望む田中を整理してコーリー・クルーバー、ジェイムソン・タイオン投手らを獲得して強化を図ったが、シーズンを通してローテーションを守ったのはエースのゲリット・コールだけ。あまりの不甲斐なさに、地元有力誌では「田中を手放したのは大きな間違いだった」と報じられたほどだ。
今季の田中の不振にも「ボールの回転数やコントロールの指数も衰えは見られない」と現地評価は依然として高い。昨年を除いて6年連続2ケタ勝利の実績と、ポストシーズンの活躍はファンに強く印象づけられている。
「現時点でも8~9億円プラス出来高くらいなら複数球団が興味を示すだろう」と予測する関係者もいる。
田中にとっては不本意に終わった今季の屈辱を晴らす意味でも楽天に残って再度、日本一に挑戦したい気持ちは強いはずだ。しかし、一方で来季は34歳を迎える。メジャー再挑戦を視野に入れるなら「ラストチャンス」であることも確かである。
ヤンキース残留を希望しながら条件面が折り合わずに退団の道を選んだ悔しさか、それとも楽天で救世主になれなかった悔しさか、2者択一の選択はまもなく答えが出るはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)