高校・大学ともに“初優勝”
11月20日(土)から11月25日(木)まで開催された秋の大一番『第52回 明治神宮野球大会』。
今年は日本シリーズと開催時期が重なったため、セ・リーグ王者のヤクルトが東京ドームで日本シリーズのホームゲームを戦ったことも話題になった。
25日(木)に高校の部と大学の部の決勝戦がそれぞれ行われ、高校の部は大阪桐蔭が広陵を下して優勝。意外にも、神宮大会はこれが初制覇となった。
そして、高校の部につづいて行われた大学の部の決勝戦では、快進撃を見せた千葉の中央学院大が“大学四冠”を目指した慶応大を撃破。こちらも嬉しい初優勝を掴んでいる。
チームとしてだけでなく、千葉県大学野球連盟の代表としても初の全国制覇を成し遂げた中央学院大。加えて、“戦国東都”で春秋連覇を達成している国学院大や、おととしの明治神宮大会と今年の大学選手権に続いて“全国3連覇”を目指した慶応大を相次いで破っての優勝という意味でも、その価値は高い。
“本命”候補の敗因は…?
そんな大会を通じて感じられたのが、「投手運用の難しさ」である。
以前はエースが完投して勝ち上がるチームが多かった中、今大会にはそういった絶対的な存在が不在。前評判の高かった慶応大と国学院大の2チームは、特にその点が大きく響いたように思う。
慶応大はエース格である森田晃介(4年/慶応)が不調。準決勝までは登板すらなく、4番手でマウンドに上がった決勝戦も、わずか6球で降板となった。
さらに本来は抑えを務める橋本達弥(3年/長田)も体調不良でベンチを外れており、その分の負担が決勝戦での9失点に繋がったと考えられる。
一方の国学院大も、リーグ戦で最優秀投手とベストナインを獲得した坂口翔颯(1年/報徳学園)が不調に苦しみ、初戦の仙台大戦ではわずか2回で降板。
2回戦は、リーグ戦で実績のない武内夏暉(2年/八幡南)が8回二死までパーフェクトピッチングの快投を見せ、完封勝利を飾るという嬉しい誤算もあった。
しかし、準決勝ではエース格である池内瞭馬(4年/津商)が1回4失点で降板。後を受けた坂口も、中央学院大打線の勢いを止めることができなかった。
“余力”を残していた中央学院大
そんな戦いの中で、最後までわずかに“余力”を残していたのが中央学院大だった。
8回途中雨天コールドゲームとなった初戦の佛教大戦では、エースの古田島成輝(4年/取手松陽)が7回2/3を1人で投げ抜き、準決勝の国学院大戦でも、先発の清水一眞(1年/共栄学園)から古田島につなぐリレーで8回まで踏ん張った。もう1人のエース格である山崎凪(4年/千葉英和)を、1イニングしか使わずに決勝まで進んだのだ。
そして迎えた決勝戦。ここも細かい継投で6回までをしのぎ、最後の3イニングを山崎が苦しみながら締めて逃げ切ったが、もし疲れの残った状態だったなら、逆転を許していたことも十分に考えられる。
思えば、明治神宮大会出場をかけた横浜市長杯では山崎が不調で、起用するポイントが難しかったという側面もあっただろう。しかし、結果として他にも全国大会で起用できる投手を多く抱えていたことが大きかった。
過去10年で最多の本塁打
また、投手陣が苦しんだということは、裏を返せば各チームの打力が上がっているということも言える。
今大会では10試合で12本の本塁打が飛び出したが、これは過去10年で最多の数字だった。一昨年の前回大会は10試合で4本だったことを考えると、いかに本塁打がよく飛び交った大会だったかということがよく分かる。
決勝戦もまた壮絶な打ち合いとなったが、両チームとも特に上位打線は常に本塁打や長打が出そうな雰囲気が漂っていた。
今後も、ある程度の失点をカバーできるような強力打線を持つチームでなければ、全国大会を勝ち抜くのは難しいだろう。
最後に、来年の秋を見据えて、“ドラフト候補”という観点から今大会を振り返ってみると、「上位指名は間違いなし」という選手は不在という印象だ。
それでも、今秋は隅田知一郎(西日本工大→西武1位)や黒原拓未(関西学院大→広島1位)、椋木蓮(東北福祉大→オリックス1位)、ブライト健太(上武大→中日1位)、正木智也(慶応大→ソフトバンク2位)といった大学生が上位指名を受けており、彼らは6月に開催された『第70回 全日本大学野球選手権』で見事なパフォーマンスを見せて評価を上げた選手たちである。
2022年のドラフト戦線は、まだ動き出したばかり。ひと冬を越えて、最終学年で一気に評価を上げてくる選手が出てくることを期待したい。
☆記事提供:プロアマ野球研究所