菅野の巨人残留が決定
巨人の大エース・菅野智之投手の残留が5日、球団から発表された。
昨オフには、ポスティングシステムでのメジャー移籍を模索。複数球団からのオファーもあったが、条件面などで折り合わずに残留。それでも複数年契約を提示した球団に対して、「もう一度、メジャーに挑戦したい」と単年契約を選択していた。今季中には海外FA権も取得して、その動向が注目されていたが、本人は年来の希望を封印。「ジャイアンツのリーグ優勝と日本一に貢献することに全力を尽くしたい」と巨人愛を優先させた格好だ。
開幕直後に脚部の違和感で戦列を離脱。ようやく一軍に戻ったと思ったら、5月には右肘の違和感で再び出場選手登録を抹消されるなど4度のアクシデントに見舞われるなど、不本意なシーズンとなった。結果は6勝(7敗)止まりでⅤ逸の大きな要因となったことは間違いない。
肉体的な変調は菅野本来の投球術にも悪影響を及ぼしている。150キロ近い速球にスライダーを軸とした多彩な変化球を抜群のコントロールで配していくのが本来の持ち味。だが、今季はコーナーを突くストレートが甘くなって痛打されるなど、本人も首を傾げる場面が再三、目についた。
文句なしの成績を残してメジャーへの再挑戦が青写真だったろうが、チームは課題山積の現状、中でも投手陣は来季に向けても多くの不安を抱えている。
今季の秋以降、先発を5人で回す“特攻ローテーション”を組んだ。菅野以外に高橋優貴、戸郷翔征、山口俊、クリストファー・メルセデスの顔ぶれだ。ここから菅野が抜けたら崩壊の危機まで意味する。
若手の高橋、戸郷にしても今季以上の数字を残す保証はどこにもない。当然、新外国人投手の獲得と若手の成長でレベルアップを図るが、菅野のアナを埋められる人材を探すのは難しい。球団挙げての慰留が実った形だが、来季の巻き返しもこの男の復活なくしてはあり得ない。
MLBのお家騒動による影響も
菅野の発表より2日前には、楽天の田中将大投手の残留も明らかになった。
こちらは、昨年オフに7年間在籍したヤンキースとの契約終了に伴いFA。メジャー各球団による争奪戦に発展したが、田中側の希望と合わずに国内復帰を決断した。9億円プラス出来高の2年契約だが、2年目の選択権は田中側が持っており、今オフにメジャー再挑戦も噂されたが、残留の道を選んだ。
田中もまた、納得のいくシーズンとはならなかった。打線との巡り合わせも悪く、好投しても結果に結びつかない。4勝9敗の数字は屈辱以外の何物でもなかっただろう。
菅野と田中。日本を代表するエースの残留劇には複雑な事情も垣間見える。
これまで挙げたような自身の不本意な成績に加えて、MLBのお家騒動が事態をややこしくしている。
この12月から経営者側と選手会の労使交渉がまとまらずに、MLBはロックダウンに突入。FAやトレードの入団交渉は凍結、練習施設の立ち入りすら禁止されている。打開策は現時点で見つからず、少なくともキャンプインや開幕までもつれ込むと言う観測もある。加えて、コロナ禍で各球団の経営が悪化。一部のスーパースターを除いて破格の長期契約を敬遠する動きも出ている。
新たな契約の形も
近年は30歳を過ぎたベテランより、若手に投資する傾向もあって来季が33歳の菅野、34歳の田中への評価はより厳しくなる。彼らの決断は、この先も日本国内でプレーする公算が大きくなったことを意味している。
これに対して、メジャー移籍に一歩前進したのがソフトバンクのエース・千賀滉大投手だ。5日に球団と新たに5年契約を結んだが、今季取得した国内FA権は行使せず、「オプトアウト」条項付きと言うのがミソだ。
年度ごとに契約の見直し、破棄が出来るのが「オプトアウト」。球団ではそれを行使できるのは「海外FAでのメジャー挑戦のみ」と説明している。簡単に言えば国内残留の場合はソフトバンクだけで、他球団への流失を防ぐ狙いだ。
17年からポスティングによるメジャー挑戦を球団に訴えてきた千賀にとって、ようやく夢は現実に近づいた。来シーズン中に海外FA権を取得予定で、この時点で「オプトアウト」条項を適用すれば23年のメジャーリーガー誕生となる。
「FAは選手の権利なので、(そうなれば)快く送り出して頑張ってもらいたい」と三笠杉彦GMも語っている。メジャーでの評価は菅野、田中以上に高く、2年後でも30歳の若さもアピールポイントとなりそうだ。
エースとはチームの屋台骨を背負って立つ存在。15勝近い白星と「10」を超す貯金をもたらせば、チームが躍進するのは当然だ。メジャーへの思いをとどまって逆襲を誓う者、夢への階段を一歩踏み出す者。思いはそれぞれ違っても来た新たな舞台に備える熱い心に変わりはない。決断の先の答えは、また1年後に出る。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)