コラム 2021.12.18. 07:08

大谷翔平が苦しめられた“四球禍” 思い返せば日本でも…?

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終盤戦は一塁に歩くシーンも多かった大谷翔平

「ショータイム」は12月もつづく…


 流行語大賞「リアル二刀流/ショータイム」に、今年の漢字「金」にも作用…。

 本格的なオフシーズンとなる12月を迎えても、まだまだ大谷翔平の話題は尽きない。




 投打の二刀流をフルシーズン貫き通し、投げては9勝、打っては46本塁打でア・リーグMVPも獲得。

 しかし、“個人タイトル”という点で見ると、日本人史上最多のシーズン46本塁打も、本塁打王には「2」本及ばず…。

 思えば、シーズン終盤は連日のように敬遠で勝負を避けられ、「また歩かせるのか…」と、朝からカリカリしたファンの方も少なくないのではないか。



 一方で、勝負を避けられ続ける大谷の姿を、かつてのNPBの助っ人と重ね合わせるオールドファンの方も一定数はいたのではないだろうか。

 日本のプロ野球も、かつては外国人打者に対して同じような“敬遠攻め”を繰り返してきた歴史がある。


敬遠攻めの元祖的存在


 敬遠攻めの元祖的存在といえるのが、阪急のダリル・スペンサーだ。

 1965年シーズンのこと。スペンサーは8月初旬までに33本塁打を量産し、2位の野村克也(南海)に6本差をつけていた。

 同年、戦後初の三冠王に輝く野村にとっては「一番苦しかった」時期だったが、そこに思わぬ“味方”が現れる。東京オリオンズの投手陣だ。

 8月14日の東京戦。スペンサーは2打席連続四球と勝負を避けられたあと、翌日のダブルヘッダー第1試合でも、抜群の制球を誇る小山正明に4打席連続で歩かされ、第2試合の2打席目まで8打席連続四球の日本記録(当時)を達成。そこには明らかに「外国人にタイトルを獲らせたくない」という意思が働いていた。


 しびれを切らしたスペンサーは、3打席目から無理矢理ボール球を打ちに行くなど、本来の打撃を見失い、9月25日まで1本塁打しか打てなかった。

 さらに、シーズンも大詰めとなった10月3日の南海戦。この時点で37本塁打のスペンサーは、野村を3本差で追っていたが、その野村がマスクをかぶっているとあって、前日は2打席連続四球。この日は1回でも多く打順が回るように1番で出場したにもかかわらず、南海投手陣はまともに勝負してこない。そして7回、スペンサーはバットを逆さに持って打席に立つと、ヤケクソ気味にバットを投げつけ、二ゴロに倒れた。


 最終的な幕切れも不運だった。

 南海戦から2日後の10月5日。バイクで球場に向かっていたスペンサーは、軽トラックと衝突事故を起こし、右足を骨折…。残り試合に出場できなくなってしまったのだ。

 結局、スペンサーが手にしたのは、当時は表彰対象ではなかった「最高出塁率」と、リーグ最多の79四球という名ばかりの“栄誉”だった。


阪神のレジェンド助っ人・バースも…


 スペンサー同様、敬遠攻めの悲哀を味わったのが、1964年に王貞治(巨人)が樹立したシーズン最多55本塁打の日本記録に挑んだランディ・バース(阪神)だ。

 1985年シーズン、王の記録まであと1本に迫る54本塁打を記録したバースだったが、10月24日のシーズン最終戦の相手は、皮肉にも王監督率いる巨人だった。

 1~2打席目ともストレートの四球のあとの3打席目。バースは見送ればボールになる外角高めを中前に運んだが、「無理にボールを打つと、日本シリーズに悪い影響が出る」と考え、4~5打席目は自重して一塁に歩いた。

 結局、バースは1打数1安打・4四球に終わり、王の記録に並ぶことができなかったが、この日の全打席出塁で巨人・吉村禎章を5毛差で逆転。三冠王に加え、最高出塁率のタイトルも手にしている。


「フェアプレーの精神に外れる」


 バースの敬遠劇から16年後の2001年。近鉄のタフィ・ローズが王の55本塁打に並び、残り3試合で日本記録更新に挑戦した。

 1試合目の9月30日は、くしくも王監督のダイエーが相手。「1番・左翼」で出場したローズだったが、1~2打席目とも四球。しびれを切らしたローズは、3~4打席目にボール球を強引に打って凡打し、ますます泥沼に。

 ところがその後、ダイエー・若菜嘉晴バッテリーコーチが「55本で終わってくれるのがいい」と、四球攻めを指示したことが報道されると、“記録を守る”ことの是非をめぐり、世論が沸騰。

 10月1日、川島廣守コミッショナーも「新記録のチャンスを故意に奪うことは、フェアプレーの精神に外れる。記録を達成した選手の人格を汚す」と異例の声明を発表し、ローズに追い風が吹いたように見えた。

 だが、残り2試合にすべてを賭けたローズは、力みから本来のスイングができなくなり、ラストチャンスとなった10月5日のオリックス戦も4打数無安打。“王超え”を達成できずに終わった。


 翌2002年には、今度は西武のアレックス・カブレラが王、ローズと並ぶ55本塁打を達成。残り5試合で新記録に挑んだが、10月5日の相手は、これまた皮肉にも王監督のダイエーだった。

 1打席目は四球。2打席目は中前安打を放ったが、3打席目は再び敬遠気味の四球。7回の4打席目は、左上腕部にぶつけられた。

 怒りを抑えて一塁に歩いたカブレラだったが、三塁走者のときに平尾博嗣の遊ゴロで強引に本塁に突っ込み、捕手・田口昌徳の顔面に肘打ちをして負傷させた。

 「報復ではない。普通のプレー」とカブレラは説明したが、このラフプレーがダイエーナインの闘志をかき立てる結果となり、9回の5打席目は、真っ向勝負を挑んだ岡本克道に三振に打ち取られた。

 残り4試合でも、カブレラは長打を意識するあまり、肩に力が入ってボールの下を叩くシーンが相次ぎ、前年のローズに続いて涙をのんだ。


 そして、その11年後の2013年。ヤクルトのウラディミール・バレンティンが、9月15日の阪神戦で56・57号を放ってついに記録更新。

 “スペンサーの悲劇”からは48年の月日が流れていた。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)



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