大台突破に「嬉しい」
1年目に720万円だった“年収”が、6年後には1億円に変わった。
会社員なら夢のような出世ストーリー。完成させたのは、阪神タイガースの青柳晃洋だ。
20日に臨んだ契約更改で、7000万円アップの年俸1億2000万円(金額は推定)でサイン。晴れて1億円プレイヤーの仲間入りを果たした。
誰もが納得の“昇給”だろう。プロ6年目の今季は先発として自己最多の13勝をマーク。それでいて黒星も6に留め、規定投球回もクリアするなど、軒並みキャリアハイの数字を残しただけでなく、最多勝と最高勝率の二冠も手中に収めている。
右腕は「球団には最大限の評価をしてもらえたと思うので満足です。嬉しいですね」と、頬を緩ませた。
「プロに入ればドラフト順位は関係ない」
大台突破の意味は小さくない。ドラフト5位と下位で入団してから、地道に実績を積み上げてきた。
「プロに入れば、順位は関係ないことを示したい」と常々口にしてきた右腕の、これ以上ない有言実行だ。
さらに、特徴である「変則投法」は武器である一方、球界では少数派。過去には自身のInstagramで横手投げや下手投げの野球少年・少女や、その指導者からの質問も募集したように、“変則代表”の自負を胸に秘めてきた。
己の強みを信じ、トップの世界で切り拓いてきた道は、その背中を追う後輩たちの大きな励みにもなり得る。
「僕は自信過剰なんで、(プロでも)できると思ってましたけど、周りから見たら“青柳が~”と思う人が多いと思うので、成長できてよかった」
開拓者はそう言ってうなずいた。
“エース”への想い
ただし、本人は決して満足感には浸っていない。まだ見ぬ“景色”へ、視線を上げる。
「これが最後というか、最高点にならないように。(2年前からの目標だった)13勝をクリアできたので、次はそれ以上ってことで、15勝を目標にしたい。開幕投手っていうのは、一度経験してみたいなとずっと思っている。一番近い目標ではあるかなと思います」
今季は藤浪晋太郎が抜擢された“大役”だが、現状は空席。昨年務めた西勇輝や、ベテランの秋山拓巳ら、有力候補の中でも、青柳だけは特に強い意欲を示している。
そして、目指す投手像、向かう境地は開幕投手の先にある至高のポジションだ。
「エースは大事な試合を全部任せてもらったりとか、(その選手)ありきでローテーションを組んだりとか。エース=開幕投手というよりは、チームを代表する投手というか、最初を任せてもらえるのが開幕投手だと思うので。開幕投手になったからといってエースというわけではないと思う。そこの差はある」
押しも押されもせぬ“エース”として、チームを頂点に導くこと。これが来季以降の青柳のたしかなミッションになる。
「来年は絶対優勝できるように」
自己ベストの今季だったが、夏場には5試合連続で勝ち星から遠ざかるなど失速もあった。
疲労が溜まった際にリリースポイントが上がってしまう悪癖の修正に向けて、トレーニングに励んでいる。
課題は伸びしろだと胸に刻んでいるから、立ち止まることはない。
「今年は個人的には良い成績でしたけど、チームとしては2位で終わって悔しかったので。来年は絶対優勝できるように、その優勝メンバーの一員になれるように」
猛虎が悲願の頂点に立った時、その中心にはさらなる進化を遂げた変則のエースがいるはずだ。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)