来秋注目の社会人有望株
11月28日から12月9日まで東京ドームで行われた『第92回都市対抗野球』。
今年も五輪の影響により真冬の開催となった社会人野球の大一番は、東京ガスの初優勝で幕を閉じた。
2年ぶりにブラスバンドやチアリーダーといった応援団が復活したこともあり、昨年以上の大盛況となった今大会。
ドラフト会議後の開催とあって、来年から贔屓チームに加わる選手の活躍をたのしみに見守るプロ野球ファンの方も多かったことだろう。
一方、ネット裏には各球団のスカウト陣の姿も。そう、来年のドラフトに向けた動きというのも既にスタートしているのだ。
そこで今回は、来年ドラフトが解禁となる有望選手に注目。今大会で活躍が目立った“ドラフト候補”を紹介したい。
河野佳(大阪ガス)が見事な完封勝利
投手でまず取り上げたいのが、高校卒2年目の河野佳(大阪ガス)だ。
初戦の伏木海陸運送戦に先発すると、被安打4、四死球0、9奪三振という二塁を踏ませない投球で、いきなり完封勝利をマークした。
176センチと投手としては小柄な部類に入り、今大会のストレートの最速は146キロ。驚くようなスピードがあるわけではないが、それでも抑えられるのは、多彩な変化球と高い制球力があるからだ。
100キロ台のスローカーブと120キロ前後のカーブ、遅いボールを2つ投げ分けて緩急をつけることもでき、さらに130キロ台前半のスライダーとツーシーム、130キロ台後半のカットボールといった速い変化球にもバリエーションがある。
そして、ストレートも含め、全てのボールで腕の振りが大きく変わることがなく、しっかりとコーナーに投げ分けている。
高校時代と比べても、踏み出した左足の着地が明らかに安定していて、楽に腕を振っているようでも140キロ台中盤のスピードがあるという「フォームとボールのギャップ」も大きな武器と言えるだろう。
チームは2回戦で敗れたものの、河野自身は7月の日本選手権と合わせて今年の全国大会では5試合・28イニング連続無失点を記録した。若干20歳でここまでの安定感がある投手はそうそういるものではない。
コンスタントに145キロを超えるまでにスピードアップしてくれば、2位以内の上位指名が期待できそうだ。
ルーキーコンビも活躍
大学卒1年目のルーキーで目立ったのは、益田武尚(東京ガス)と関根智輝(ENEOS)の2人。
益田は予選ではリリーフで1試合・2イニングを投げただけだったが、初戦のミキハウス戦で先発を任されると、立ち上がりの3回をパーフェクトに抑え込む見事なピッチングを披露。4回に2本の適時打を浴びて2点を失ったが、5回を2失点にまとめて全国大会初登板での初勝利を記録した。
ストレートは今大会登板した全投手の中で最速となる153キロをマーク。しかも、51球投じたストレートのうち17球が150キロを超え、その平均球速は148.8キロとプロでも上位に入る数字を記録している。
スピードの割にバットに当てられるのは課題だが、130キロ台後半のカットボールとフォークはストレートと同じ軌道から鋭く変化するボールで、決め球として十分な威力を発揮していた。
また、130キロ台前半のスライダーでカウントをとれるのも大きな武器である。もう少し遅い変化球で緩急を使えるようになれば、スピードがさらに生きるようになるはずだ。
準々決勝のENEOS戦でわき腹の痛みを訴え、わずか1球で降板となったのは心配だが、順調にいけば来年の有力候補となることは間違いないだろう。
関根も最速148キロをマークしたが、それ以上に制球力が素晴らしかった。初戦のJR東海戦では立ち上がりから捕手の構えたコースに寸分も違わぬボールを投げ込み、4回二死までパーフェクトピッチングを披露。
下半身主導で無駄な動きが一切なく、テイクバックでしっかり肘が立って縦に腕が振れるフォームは、お手本にしたいくらいの安定感を感じる。
大学時代に肘の手術で長期離脱しており、本格的に長いイニングを投げるのは今年からということもあってか、中盤以降は少しボールが浮くこともあったが、6回と0/3を投げて被安打3、四死球0で無失点としっかり試合を作り、チームを勝利に導いた。
敗れた準々決勝の東京ガス戦では4回に崩れて負け投手となったが、3回までは強力打線をノーヒットに抑え込んだ。スタミナ面の不安が払しょくできれば、先発タイプとして面白い存在だ。
この他にも、右投手では竹本祐瑛(JR東日本東北)、多田裕作(NTT東日本)、松葉行人(JR東日本東北/七十七銀行から補強)、有村大誠(Honda)。左投手では加藤三範(ENEOS)、長谷部銀次(トヨタ自動車)、林明良(エイジェック)、山田啓太(JFE東日本)といったところは名前を覚えておきたい存在。
来年以降も引き続き、スカウト陣から注目を集めることになるだろう。
大阪ガスにまたひとり注目野手が
一方の野手は、投手と比べると目立つ選手が少ない印象を受けた。そんななかでも、貴重な強打者タイプとして面白いのが三井健右(大阪ガス/外野手)である。
初戦の伏木海陸運送戦では、松本賢人(バイタルネットから補強)の147キロ速球をライト線に弾き返し、貴重な追加点となる適時二塁打。チームの勝利に貢献した。
敗れたJFE東日本戦では4打数無安打で2三振と相手の厳しいマークに対応できず、悔しい結果となったが、度々見せるフルスイングの迫力は社会人でもトップクラスである。今大会は指名打者での出場だったが、末包昇大(広島ドラフト6位)が抜ける来年は外野もしっかり守れるところをアピールしたい。
もうひとり、フルスイングで目立ったのが平良竜哉(NTT西日本/二塁手)だ。
170センチの上背ながら、体がねじ切れるかのような豪快なスイングを見せ、2試合で4安打をマーク。少し強引すぎるところもあるが、とにかくバットがよく振れるというのは大きな魅力だ。
また、三井と大阪桐蔭時代にクリーンアップを組んだ古寺宏輝(Honda熊本/一塁手)も、5試合で3安打ながらサヨナラ弾を含む2本の本塁打を放ち、チームを準優勝に導いている。
リードオフマンタイプでは、滝沢虎太朗(ENEOS/外野手)が3試合で5割近い打率を残し、古寺とともに若獅子賞を受賞した。
高校時代から高い守備力に定評のある佐藤勇基(トヨタ自動車/二塁手)も一発を放つなど打撃面で成長を見せている。
最後に、数少ない高校卒の選手では、住谷湧也(西濃運輸/外野手)が初戦で敗れたものの、適時打を含む2安打とシュアな打撃でアピールした。
思えば中野拓夢(阪神)がドラフト6位での指名ながら、いきなりレギュラーを獲得する活躍を見せていることもあって、今年のドラフトでは前年の倍となる6人の社会人野手が指名を受けた。
今回紹介した選手たちも、今後の活躍次第でドラフト戦線に浮上してくることは十分に考えられるだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所