弾みをつけていざプロの世界へ!
11月28日から12月9日まで東京ドームで行われた『第92回都市対抗野球』。
今年も五輪の影響により真冬の開催となった社会人野球の大一番は、東京ガスの初優勝で幕を閉じた。
2年ぶりにブラスバンドやチアリーダーといった応援団が復活したこともあり、昨年以上の大盛況となった今大会。
ドラフト会議後の開催とあって、来年から贔屓チームに加わる選手の活躍をたのしみに見守るプロ野球ファンの方も多かったことだろう。
そこで今回は、2021年のドラフト会議で指名を受けてから大会に臨んだ14名(投手8・野手6)の中で、特に目立った選手をピックアップして紹介していきたい。
広島5位右腕が圧巻のピッチング
投手で圧倒的な存在感を見せたのが、広島から5位で指名を受けた松本竜也(東邦ガス/Honda鈴鹿から補強)だ。
初戦では、優勝候補の一角とも見られていた三菱重工Eastを相手にリリーフで3回1/3を投げて被安打2、無失点の好投。1点差を守り抜き、チームの勝利に大きく貢献した。
つづく日立製作所との試合でも、同点で迎えた延長10回・タイブレークでの一死満塁という絶体絶命の場面からマウンドに上がると、全球ストレート勝負で連続三振。その裏のサヨナラ勝利を呼び込んでいる。
準々決勝のHonda熊本戦も、チームは敗れたものの、松本は6回からの4イニングを無失点と好投。最終的には今大会で登板した3試合・8回を無失点のまま大会を終えている。
特に素晴らしかったのが、内角を強気に攻める姿勢と、走者を背負っても崩れないハイレベルなコントロールだ。
Honda熊本戦では、四死球が許されない二死満塁から4番の古寺宏輝と対決。内角のストレートを続け、最後は外角のカットボールで打ちとるというシーンがあったが、1球もコントロールミスをすることなく投げきっており、その集中力は圧巻だった。
ストレートはコンスタントに145キロを超え、緩急をつけるカーブと鋭く横に滑るカットボールも素晴らしいボールである。
縦の変化球をあまり使わないのは気になるところだが、今大会で見せたような投球ができれば、プロでも1年目から一軍の戦力となる可能性は高いだろう。
“ドラ2コンビ”の注目左腕が快投
先発として力を発揮したのが、広島2位指名の森翔平(三菱重工West)と、巨人2位指名の山田龍聖(JR東日本)。プロからも高い評価を受けたサウスポー2人だ。
森は三菱自動車倉敷オーシャンズ戦に先発すると、2回にパスボールで1点を失ったものの、3回以降は危なげないピッチングを披露。最終的に8回を投げて被安打3、8奪三振で自責点0という好投で、チームの勝利に大きく貢献した。
昨年までの印象としては、スピードはありながらも打者にとらえられることが多かったが、今年はストレートも変化球もコントロールが安定。試合を作る力が格段にアップしている。
さらに同じ球種でも微妙な変化をつけており、ここ一番でギアを上げられるというのも大きな長所だ。ルーキーイヤーから先発ローテーション争いに加わることも期待できるだろう。
一方の山田は、準優勝したHonda熊本を相手に7回2/3を投げて3失点で負け投手となったが、10奪三振をマークするなど、能力の高さは十分に示した。
小さいテイクバックでボールの出所が見づらく、コンスタントに140キロ台後半をマークするストレートは打者の手元で伸びるような球筋で、空振りを奪えるのが大きな魅力だ。
課題だったスライダーにも徐々にスピードが出るようになり、打者の手元で変化するようになっている。変化球のレベルを全体的に上げる必要はありそうだが、貴重な左の先発候補として楽しみな存在であることは間違いない。
ロッテ入りが決まっている2人のリリーバー
リリーフタイプで力を発揮したのが、ロッテから3位で指名された廣畑敦也(三菱自動車倉敷オーシャンズ)と、同じくロッテから5位で指名された八木彬(三菱重工West)の2人だ。
廣畑は初戦の三菱重工West戦で、1点ビハインドの7回一死二塁のピンチから登板。150キロ台のストレートを連発して押し込み、チームを危機から救うと、続く8回も走者は背負ったものの、同じように最後の打者には150キロ台のストレートを5球続けて三邪飛。その能力を示した。
1年前の都市対抗でその名を轟かせた右腕だが、先発でもリリーフでも立ち上がりが安定しているというのはやはり大きな武器である。総合的に見て、即戦力に最も近い投手という印象は変わらない。
一方の八木は、リリーフで2試合・2回を投げてパーフェクト。3奪三振と見事な投球を見せた。
ストレートの最速は151キロをマークし、決め球のフォークもブレーキは申し訳ない。制球力も年々向上しており、1年目から勝ちパターンのリリーフに入ってくることも十分に考えられる。
ラオウにつづくか…2人の大砲が魅せた
長打力をアピールしたのが、阪神から6位で指名された豊田寛(日立製作所)と、広島から6位で指名された末包昇大(大阪ガス)である。
豊田は初戦のヤマハ戦に「1番・右翼」で出場。試合開始直後の第1打席でセンター前に鋭く弾き返す安打を放つと、第3打席では貴重な追加点となる2ランをライトスタンドに叩き込んだ。
その本塁打を放った打席でふくらはぎを痛めてしまい、以降の試合は欠場したものの、持ち前のパンチ力と右方向への打撃は強いインパクトを残している。
末包は初戦の伏木海陸運送戦で、センターバックスクリーンに挨拶代わりの一発。注目を浴びる中で結果を残し、チームを勝利に導いた。
敗れたJFE東日本戦では、外角の変化球にことごとく対応できず、4打席連続三振と課題を残したものの、そのパワーと存在感の大きさは証明済みだ。
下位指名で社会人からプロの世界に飛び込み、今季大ブレイクしたオリックスの杉本裕太郎のような道を進むことができるか。これからの歩みに注目したい。
一方、守備力とミート力で存在感を放ったのが、日本ハム9位の上川畑大悟(NTT東日本)だ。
なかでも初戦のトヨタ自動車戦、緊迫した9回一塁の場面で見せたフィールディングは圧巻。三遊間の打球を逆シングルでさばき、素早い持ち替えとスナップスローで併殺を完成。相手の反撃ムードを断った見事なプレーだった。
また、課題と言われてきた打撃も、4試合で12打数5安打、打率にして.417と成長ぶりを見せている。こちらも下位指名ではあるが、一芸を武器にプロの世界であっと驚く活躍を見せても不思議ではない。
ヤクルト3位指名・柴田大地(日本通運)の登板がなかったのは残念だったが、ドラフトで指名された選手の多くが元気な姿を見せ、その実力を発揮。来年からのプレーが楽しみになったというプロ野球ファンの方も多かったことだろう。
今度はプロの舞台でも、見るものを魅了するような活躍を見せてくれることに期待したい。
☆記事提供:プロアマ野球研究所