立浪ドラゴンズの1年目に人生初の大役
中日・大野雄大が2022年シーズンの投手キャプテンに指名された。
野手部門は大島洋平で、立浪和義新監督の1年目は33歳と36歳による“2トップ”で始動する。
大野にとっては、人生初の“キャプテン”。
ご機嫌で前向きで、メディアへのサービス精神も旺盛。テレビ番組で「口から生まれたサウスポー」と呼ばれたこともあった。
だが、ちょっと待てよ…。左腕を語るうえで、忘れられないスピーチがあるではないか。
ファンの前で誓った再起
2020年に沢村賞の看板を得て、昨年は東京五輪で金メダルも獲得。今でこそチームを、球界を代表する投手となっているが、2016年は違った。
選手会長就任イヤー。球団創設80周年という節目の年に、最下位という屈辱を味わった。
その年の9月25日。ホーム最終戦を終えたグラウンドは、スタンドからの怒号で充満していた。
球団首脳のあいさつの声がかき消されるほどの異様な空気の中で、大野はマイクを握った。
「今ここで、来年も応援よろしくお願いしますと軽々しく言うことはできません。我々が今すべきことは、ドラゴンズを応援したい、選手と一緒に戦いたいと、ファンの皆さまに思っていただけるようなチーム作りをすることだと思います。来年に向けて、この秋、冬、春と、選手個々がどうしたらチームが強くなるのかと考え、必ず強いドラゴンズを取り戻すために精進していきますので、皆さま見ていてください」
選手による、謝罪と再起の誓い。場内は静まり、充満していた怒りは少し和らいだ。
「ボクは超・現代っ子ですから」
背番号22は小学生で野球をはじめてから、キャプテンとは無縁だった。
立浪監督から「来年、大島と大野にキャプテンをやってもらいたいと思う。引き受けてくれるか?」と電話連絡があったのは昨年12月中旬のこと。すぐに引き受けた。
なぜ、自分が主将なのかを考えた。もちろん、指揮官からも性格は把握されている。
「ボクはガミガミ言うタイプではない。ボクなりの、時代に合った伝え方をします」
後輩投手に冗談のように声を掛けていた内容は、半分は本音だった。笑ってごまかされても、何も思わなかった。
しかし、今はちょっと違う。
「そんなに、ボク自身が変わることはないですけれど、言わなきゃいけないことは言わなきゃいけないと思っています」
手始めに、沖縄自主トレの後輩メンバーである小笠原慎之介と橋本侑樹にメニューづくりを頼んだ。自覚を芽生えさせるために。
「それなりにしんどいメニューをつくってくれ、と伝えました。ホンマはボクがやらなきゃいけないかもしれませんが、あえて、彼らにやってもらいます。そのメニューを一緒にやろう、ということですね」
大野雄大には大野雄大のやり方がある。上から抑えつけ、指示し、尻を叩くだけでは人はついてこない。「ボクは超・現代っ子ですから」という自身が何より、矛盾や理不尽を嫌う。
締めるところは締め、時におちゃらけ、笑顔ではしゃぐ。オンとオフの切り替え能力の高い左腕らしい主将になる。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)