白球つれづれ2022~第2回・新ポストにかかる期待
昨年、リーグ3連覇を逃した巨人が雪辱のスタートを切った。
今季のチームスローガンを「不屈」とした原辰徳監督は、例年以上の厳しさをチームに求める。首脳陣では一軍の元木大介前ヘッドをヘッド兼オフェンスコーチに、阿部慎之助前作戦コーチを作戦兼ディフェンスコーチに任命。宮本和知前投手コーチのフロント転出に伴い、新たに桑田真澄チーフ投手コーチが誕生した。
「昨年は、ともすれば役割分担が明確でなかった」とする指揮官が首脳陣にも役割を明確化して、より責任と厳しさを求めたものだ。
中でも巨人再建の大任を担うのが桑田新チーフだろう。
野球はまず、投手力から。1年間を通して安定した守りがなければ優勝はおぼつかない。その意味で昨年の巨投は空中分解に等しい惨状を呈した。
大黒柱の菅野智之投手が故障続きで自己ワーストの6勝止まり。秋口に入ると宮本前チーフ投手コーチが5人の先発陣に中4日の“特攻ローテ”を命じるが笛吹けど踊らず。勝負所の9、10月で高橋優貴投手と戸郷翔征投手は1勝止まりでひ弱さを露呈した。その結果、チーム防御率は一昨年の3.34(リーグトップ)から3.63(リーグ4位)まで落ち込み、V逸の大きな因となった。
投手再建への道筋は?
では、新任の桑田チーフにどんな再建策があるのか?
真っ先に挙げたのは「守備力と制球力の向上」である。言い換えれば投手としての総合力をアップすることで、ゲームを支配することが出来ると言う桑田流の投手哲学でもある。
「投手は剛速球や魔球のような変化球が注目されるが、それはあくまで手段。本来の目的はアウトを取ることです。その捕りかたも三振だけじゃなく、守備や牽制も含まれる。たとえ四球を出しても、牽制やバント処理でアウトを取れたら自分が助けられる。内野ゴロを打たせてゲッツーならなおさらです。アウトはアウトなので」(1月4日付スポニチのインタビューより)
現役時代、目を見張る剛速球を投げる投手ではなかった。それを補ったのは抜群のコントロールとフィールディングを含めた天性の野球センスで白星を重ねていった。
今時は150キロの快速球に目を奪われがちだが、ピンチをどう未然に防ぐか、そのためには何が必要なのかを肌で知っている。好調時の菅野なら圧倒的な力で相手をねじ伏せられるが、他投手の場合はそうもいかない。好不調の波もある。こうした時に単に投げるだけではなく、投手としての引き出しを多くすれば、白星への可能性はまだまだ広がると言うわけだ。
昨年、巨人の与四死球(※故意四球を除く)は520でリーグ5位、一方のヤクルトはリーグ最少の413。高津監督の下で“逃げない投球”を心掛けた結果が最下位からの優勝につながっている。制球力とは投手陣全体の底上げも目指せる重要課題となる。
覇権奪還のその先へ
例年ならトレードやFAに激しく動き回る巨人が昨オフは静かな動きに終始した。原監督にすれば昨年不振に終わった既存戦力の復活と若手の底上げに舵を切ったとも受け取れる。
とは言え、投手陣では新外国人であるマット・アンドリース投手(前マリナーズ)に大きな期待がかかる。メジャー通算28勝の右腕が先発に回れば、菅野、高橋、戸郷に山口俊投手、C.C.メルセデス投手の6人で先発陣の骨格が出来上がる。
「先発は全くの白紙。若手にもどんどんチャンスを与えたい」とする桑田コーチの頭の中には2年目の山崎伊織投手や3年前のドラフト1位・堀田賢慎投手らホープの名前もあるようだ。
チーフ投手コーチの仕事ぶり次第では、さらなる大任まで夢は広がる。“ポスト原”の次期監督問題である。
これまで阿部コーチが最有力と目されてきたが昨シーズン終了後、原監督は「今はフラットな状態」として阿部以外に元木、桑田、さらに二岡智宏二軍監督、駒田徳広三軍監督に背広組の川相昌弘ファーム総監督の名前を挙げて、競わせる方針を明らかにしている。
昨年は「投手チーフ補佐」の肩書で宮本コーチを助ける形だったが、今季は投手陣のボスとして待ったなし、勝負のシーズンがやって来る。巨人の過去の監督の顔ぶれを見ると四番打者か、エースが選ばれてきた。その流れで見れば桑田は阿部と共に次期監督の有力候補に名乗りを挙げたと言える。
まずは投手チーフコーチとして、いかにチームを建て直せるか?桑田コーチの改革が見ものである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)