「輝さんの数字を目指して」
1月10日(月)は「成人の日」。
プロ野球界では高卒3年目のシーズンを迎える選手たちがいわゆる“新成人”となり、セ・パあわせて合計52名の期待の若手が決意を新たにした。
阪神の高卒3年目・井上広大も、成人式後に受けたインタビューで「昨年の輝さん(=佐藤輝明)の数字を目指して頑張ります」と意気込み。
佐藤輝明は大卒1年目の昨季、前半戦だけで20本塁打を達成するなど打ちまくり、後半戦は失速したものの、126試合の出場で打率.238(425-101)、24本塁打で64打点をマーク。
大下弘(セネタース/1946年)が持っていた左打者の新人最多本塁打記録を更新するなど、大きな話題を集めて「新人特別賞」にも輝いている。
一方、井上はここまで一軍での本塁打がゼロ。昨季は一軍での出場すらなかった。
それでも、ファームでは8月に右脛骨を骨折したことで106試合中68試合の出場にとどまった中、50打点でウエスタン・リーグ打点王のタイトルを獲得。本塁打も9本はリーグ4位タイと、才能の片りんは見せている。
ウエスタンで本塁打王に輝いたリチャード(ソフトバンク/12本)は一軍でも7本塁打を記録しており、井上にも同様の期待がかかってくる。
近本以外のレギュラーは白紙状態
ファームでは主に両翼を守った井上。一軍の外野陣を見ると、不動のレギュラーと呼べるのは中堅の近本光司くらい。
左翼を守ることが多かったジェリー・サンズは退団し、右翼を多く守った佐藤輝明も三塁でシートノックを受けるなど、ポジションは固まっていない印象。事実、矢野燿大監督も秋季キャンプの時点では、「外野のレギュラーは近本くらい」と白紙を強調していた。
両翼の候補は来日2年目となるロハス・ジュニアに、昨季終盤戦で出番を増やした島田海吏、一発のある陽川尚将、さらには2016年新人王の髙山俊、そしてベテランの糸井嘉男と、こういったところが虎視眈々とレギュラーの座を狙っている。
井上はこの争いに割って入っていくことができるか、今季の阪神の大きな注目ポイントになることは間違いない。
しかしながら、気になるのは近年の阪神において「高卒野手がいまひとつ育っていない」という点。
昨季の阪神はセ・リーグ最多となる8名が規定打席に到達したのだが、そのうち生え抜きの高卒選手というのは一人もいなかった。
優勝したヤクルトを見ると、村上宗隆と山田哲人の両軸に加え、日本シリーズでMVPに輝いた中村悠平と、中心選手が高卒でプロ入りした選手たち。巨人も岡本和真と坂本勇人、高卒のスターがチームを引っ張った。
広島も主砲の鈴木誠也だけでなく、次世代を担う小園海斗と坂倉将吾がはじめて規定打席に到達。中日は主将も務める高橋周平、そしてDeNAもリードオフマンの桑原将志がそれぞれ規定をクリアするなど、人数には違いがあるが、各球団で生え抜きの高卒野手が活躍しているのだ。
長らく不在の“生え抜き高卒スター”
直近の阪神で生え抜きの高卒野手が規定打席に到達したケースを調べると、2017年の中谷将大(現・ソフトバンク)までさかのぼらなければならない。
そして、その中谷もキャリアで規定に到達したのはそのシーズンのみ。昨季途中、二保旭との交換トレードでソフトバンクへと移籍している。
2010年以降では、中谷のほかに大和(現・DeNA)が2013年と2014年に2年連続でクリアしたのが加わるだけ。いずれもチームには残っていないという結果になった。
チームの歴史で見ても、昭和の時代には藤田平や掛布雅之といった高卒生え抜きのスターがいた。
だが、平成に入ってからは新庄剛志、そして関本賢太郎が目立つくらい。長らく高卒生え抜きの主力選手が育っていない。
こうした流れからも、井上にかかる期待は大きい。球団のレジェンドである藤田や掛布は高卒3年目にはすでにレギュラーに定着しており、新庄も95試合に出場してプロ初アーチを含む11本塁打を放った。
激しいレギュラー争いを勝ち抜き、スターへの階段を駆け上がっていくことができるか…。
寅年の2022年、井上にとって“分岐点”となるかもしれないシーズンがもうすぐはじまる。