新庄剛志がオープン戦で魅せたスーパープレー
2月も下旬に差し掛かり、プロ野球開幕が徐々に近づいてきた。
いよいよ本日23日(水)からは、開幕戦に向けた春季非公式試合、いわゆるオープン戦が開幕する。
“非公式試合”とはいえ、若手選手にとっては開幕一軍、開幕スタメン入りをかけた大事なアピールの場。
過去のオープン戦で起きた珍プレーや珍場面を振り返ると、興味深いエピソードも少なくない。
今回は「熱戦を彩る珍プレー編」と題し、オープン戦で起こったビックリ仰天のスーパープレーや珍プレーを集めてみた。
二塁走者が投ゴロの間に激走し、一気にホームインするスーパープレーが見られたのが、2004年3月6日の日本ハム-ヤクルトだ。
1-0とリードの日本ハムは2回無死、4年ぶりの日本球界復帰を果たしたばかりの新庄剛志が中前安打で出塁。島田一輝の二ゴロで二進したあと、高橋信二の四球で一死一・二塁となった。
そして、次打者・金子誠のカウント2ボール・2ストライクのとき、ベンチから重盗のサインが出ると、新庄はトニー・マウンスの投球と同時にスタートを切る。
金子は高くバウンドする投ゴロ。打球を処理したマウンスは、左腕とあって、新庄の動きは死角で見えない。「三塁で止まるだろう」という先入観から、そのまま一塁へ送球した。
一方、新庄は「アウトになってもいいかなと思って。アウトになったら、自分が怒られて、セーフになったら、ファンが喜んでくれればいいと思って走った」と迷わず三塁を回る。
直後、一塁から本塁へ送球され、際どいタイミングとなったが、新庄は捕手・米野智人の後ろに回り込み、右手で本塁ベースをタッチ。中村稔球審は声高らかに「セーフ!」を告げた。
完全に意表を衝かれたマウンスは「あれはとにかくサプライズだ」と目を白黒。トレイ・ヒルマン監督も「うまく読んで、思い切って走塁してくれた」と絶賛するなど、メジャー経験者も認める一級品のプレーだった。
阪神時代の1999年には投手に挑戦し、オープン戦2試合に登板したことでも知られる新庄。
後のBIGBOSSは、オープン戦でも記憶に残るプレーを一度ならず披露した真のエンターテイナーだった。
一打席で20球も投げさせた強者
1打席で最も多くの球数を投げさせたNPB記録は、1947年の松井信勝(太陽)にはじまり、2012年の明石健志(ソフトバンク)と2013年の鶴岡一成(DeNA)が記録した19球(※1962年の日本シリーズで東映・久保田治も記録)。
ところが、オープン戦では彼らの上をいく「20球」も投げさせた強者がいる。巨人・後藤孝志である。
1993年3月6日のダイエー戦。「1番・右翼」でスタメン出場したプロ6年目の後藤は、1-2の3回、「先頭打者だから、打てる球が来るまでカットしよう」とダイエーの先発・足利豊からファウルを連発。
初めは「前へ飛ばさんかい!」と野次っていた北九州のダイエーファンも、ファウルが10球を超えたあたりから、どこまで続くのか、息をのんで見守りはじめた。
ファウル15球と粘りに粘った後藤は、ついにフルカウントからの20球目、四球を選んで一塁へ。敵地にもかかわらず、スタンドから「いいぞ!」の声援も飛んだ。
そしてこの後藤の執念が実り、直後、巨人は駒田徳広の2ランと長嶋一茂の2打席連続弾となるソロで、4-2と逆転に成功した。
プロ野球記録を塗り替えたにもかかわらず、残念ながら「参考記録」にとどまり、主役の座も一茂に奪われたものの、後藤は「使ってもらえるときにアピールしないとね」と記録よりも結果を出せたことに満足そうだった。
“吉田正シフト”を見事に破った!
一二塁間を抜くゴロが「三塁内野安打」になるという珍プレーが見られたのが、昨年3月6日のDeNA-オリックスだ。
オリックスは3回二死、3番・吉田正尚が一二塁間に痛烈な打球を転がした。本来なら外野に抜けるクリーンヒットになってもおかしくない当たりである。
ところがどっこい、「そうはさせじ!」とばかりに立ちはだかったのがサードの宮﨑敏郎。“吉田正シフト”でこの位置を守っていたのだ。
だが、せっかくの奇策も、宮﨑が打球をグラブで弾いてしまったことから、一塁に送球することができず、記録はまさかの三塁内野安打となった。
前年初タイトルの首位打者を獲得するなど、パ・リーグを代表する強打者・吉田正は右方向への打球が多いことから、日本ハム・栗山英樹監督が2019年の開幕早々、この日のDeNA同様、一二塁間を3人で守るシフトを敷くなど、各チームからマークされていた。
DeNAも前日から2試合続けて全打席でシフトを用いていたが、これまで何度も“試練”をくぐり抜けてきた吉田正にとっては、“見慣れた光景”。
この日は、初回二死の1打席目も一二塁間で待ち構える宮﨑の頭上を越す安打を放っており、三塁内野安打と併せて2打席連続のシフト破りを成功させた。
さらに翌日のDeNA戦でも、吉田正は初回の1打席目に“シフト無用”の右翼席上段への大アーチ。3回の2打席目には、ガラ空きの三塁にゴロを転がす遊撃内野安打と相手の裏をかく余裕も見せた。
「特別変わらず自分のスイングをして、追い込まれたら反対方向に。ヒットゾーンを広く使っていければ」と、本番前のオープン戦でシフトへの対応をバッチリおさらいすることができた吉田正は同年、2年連続首位打者を獲得。
チームの25年ぶりパ・リーグ制覇に貢献した。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)