第29回:「日々成長していけるように」大松コーチの指導
日本一のチャンピオンフラッグがはためいていた。
沖縄・浦添市で行われたヤクルトの一軍キャンプは、これまで一軍経験の少ない若手選手も参加し、活気に満ちていた。
次代を担う若手を熱心に指導していたのが、昨季まで2年間ファームで打撃コーチを務めてきた大松尚逸コーチ。今季から一軍打撃コーチに昇格し、連覇を目指すチームを支えていく。
キャンプも後半に突入した2月21日、一軍のレギュラー陣とともに汗を流す若手選手について、大松コーチはこう話した。
「一軍の先輩たちと一緒に練習することや実戦形式の練習をすることもそうですし、多くのお客さんの前でやるということも踏まえて、すべては経験だと思います」
昨年、20年ぶりの日本一に輝いたチームは、打撃陣の層が厚い。その中で経験値の少ない若い選手が必死にバットを振り、ボールを追いかける姿が印象的だった今春のキャンプ。大松コーチの目にはどのように映ったのか。
「日々成長していけるようにと、若い選手には話をしています。しっかり段階を踏んで、それぞれに課題があってやることがたくさんあるので、まずはそれを練習でできるようにしてから実戦ではどうなのか。また、実戦で出た課題を練習で潰していく。その繰り返しになります。結果が出ている、出ていないはありますけど、順調かなと思います」
2年目捕手・内山壮真の評価
キャッチャーのポジションでは、今年から球団OBの古田敦也氏が背負った27番を継承した中村悠平が、司令塔としてチームを引っ張る。
その中村を将来脅かす存在になるかもしれないのが、2年目の19歳・内山壮真だ。
1年目は一軍で6試合の出場に終わり、プロ初安打とはならなかったが、2年目の今年は一軍キャンプに初参加。2月20日のロッテとの練習試合(浦添)では「4番・捕手」で先発出場し、3安打・1打点と結果を残した。
大松コーチは、そんな内山の良さについて「一番は選球眼」と即答する。
「選球眼は本当に良い。自分の打つべきボールがはっきりしている選手なので、ボールと思えば手を出さないというところは、大きな特長かなと思います」
内山自身も「(試合では)ボールを長く見る意識はしている」と話し、自分の狙い球をしっかり捉えようとする姿勢がうかがえる。
また、大松コーチは、昨年一軍に昇格した際の内山の姿を見て「二軍と変わらないような打席の立ち振る舞いや選球は、なかなかできない」と、1年目の村上宗隆のような堂々とした姿と重ね合わせた。
さらに「必死に何とか打ちにいこうとみんな思いますし、そういう中で打つべきボールとか、タイミングをしっかり取れるというところはひとつの武器だと思います」とつづけ、「打てる捕手」として、その能力を高く評価している。
「試合で結果を残せる選手」の特徴
練習の成果を結果で示さないと、一軍の舞台で生き残ることはできない。
実際に“試合で結果を残せる選手”とは、どんな選手なのか…。現役時代、勝負強い打撃でチームに貢献してきた大松コーチに聞いてみると、このような答えが返ってきた。
「いかにバッター優位のカウントで勝負をかけて打てるかというところは、ひとつ大きな要素。あれも打ちたい、これも打ちたいだと絶対に打てない。そういうところで腹をくくれるか」
一軍に定着するためには、勝負所でいかに結果を残せるかが大事。大松コーチは「100か0。これでいくと決めたらいく」と、思い切りの良さが勝負の分かれ目になると話してくれた。
相手投手との対戦に勝ち、チーム内の競争にも打ち勝つ。
ヤクルトでは、遊撃のレギュラーだけが固まっていない。若手では昨年ルーキーながら97試合に出場した23歳の元山飛優に加え、ともに3年目で20歳の長岡秀樹と武岡龍世の3人が候補。ほかにも9年目・30歳の西浦直亨や、4年目・26歳の吉田大成らがし烈な争いを繰り広げる。
大松コーチは「いまのうちのレギュラーメンバーを考えたら、しっかりつなげられる、野球をしっかり理解できるようなプレイヤーが打線にいてくれると、よりつながりが増すと思うので、そういうことは日々考えながらバッティング練習をさせるようにしている」と教えてくれた。
昨年は12球団で唯一600得点以上を叩き出したヤクルト打線。下位から上位につなぐことができる切れ目のない打線が構築すれば、チーム力はさらに向上する。
チームに貢献するためにはどうすれば良いか。結果を求め一軍定着を狙う若手の争いは激しさを増してくる。若手の生存競争が、連覇に向けての起爆剤となるはずだ。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)