悔しいプロ1年目…つかんだ手応え
「結果として一軍で投げられないまま終わってしまった。そこに対しては非常に悔しい気持ちはありました」
昨季、一軍登板を果たせなかった思いを口にしたのは、ヤクルトの木澤尚文。慶応義塾大学から2020年ドラフト1位で入団した23歳の右腕は、1年目に味わった悔しさとともに、今季に向けた確かな手応えをつかんでいた。
「ファームで先発、中継ぎともにたくさんの登板機会をいただいた。その中で投手有利のカウントにできれば、自分自身の真っすぐとカットボール、フォークに関しては、勝負できるボールなのかなと感じることができました」
150キロを超えるストレートが魅力だが、本人は「真っすぐ3球続けてバッターと勝負というタイプのピッチャーではないので、あまり過信せずに他のボールを使いながら真っすぐを生かしていきたい」と言い切る。
「投手有利のカウントにできるかどうかが肝」と話す木澤は、プロ1年目でアマチュア時代との違いも痛感したという。
「根本的なストライクゾーンの広さももちろん違いましたし、アマチュア時代はボールになる変化球に手を出してくれていましたが、そこに全くプロのバッターは手を出してくれなかった。自分の現状の実力だと、なかなかストライク先行のピッチングができないという1年間でした」
木澤の課題である制球力。2月の春季キャンプでは、背丈ほどの障害物を身体の側に置き、ブルペンで投球フォームの矯正を行っていた。
無意識に障害物が邪魔にならないように投げることで、結果として左肩が開かないようになっていき、制球を良くすることが狙いだ。
「自分自身が意識してやりたいことを無意識にできるようにするために、障害物を置く。伊藤(智仁)コーチからの発案ですが、考えなくてもそういうフォームにしていけるようにというところかなと、僕は思っています」
監督からの言葉、仲間への思いも胸に
ルーキーイヤーも一軍キャンプに参加したが、「昨年のキャンプは1カ月間、右も左もわからず、上手にアピールすることができずに終わってしまった」と振り返る。
迎えた2年目の春季キャンプ。「今年に関してはいろんな人とコミュニケーションを取りながら、毎回ブルペンでも明確に課題を持てていますし、キャンプに入ってからも成長を実感できているところも多い」と、1年目とは違う自分を発見した。
周囲の期待は大きい。高津臣吾監督からは「常に強いボールを投げられる状態を維持しなさい」という言葉があった。
「強いボールを常に投げられるのが木澤の強みだと思うから、そこは崩さないように1年間コンディションであったり、体調面であったりを留意して、自分の長所をどんどん伸ばしていけるようにと、言葉をいただきました」
また、キャンプ前半に臨時コーチとしてやってきた古田敦也氏からは、ストライクゾーンの使い方について助言をもらったという。
「実際にバッターが立ってインコースとアウトコースについて、どんな球で組み立てていくか。バッターの反応を見ながら、内と外をうまく使えればバッターを困惑することができるとアドバイスをいただきました」
古田氏の印象を「選手に対して同じ目線でわかりやすく話していただける、とても優しい方」と話し、「僕らが小学生ぐらいの頃、スターのキャッチャー。そういう方から技術的なアドバイスをいただけるというのは感慨深くて、不思議な感覚」と、貴重な経験を心に刻んだ。
スワローズの黄金期を支えたバッテリーから言葉を贈られ、大学時代に慶大のエースとして投げ抜いてきた男は、今季こそ慣れ親しんだ神宮球場のマウンドでプロ初の一軍登板を果たす。
神宮ではまだ一度も登場曲を流せていないが、選曲しているのはサザンオールスターズの『希望の轍』だ。
「大学時代の野球部はみんな、サザンが好きな人が多かった。僕自身が一番好きな曲でもあるんですけど、それが神宮で流れているところをみんなが見て頑張ろうと思ってくれたらなと思って。みんなと相談して決めました」
悔しさを乗り越えて臨むプロ2年目。連覇を目指すチームのために、どんな場面でも腕を振る。
「気持ちを前面に出した力強いボールであったり、バッターに向かっていく姿勢であったりというのは僕の良さだと思う。そういったところでチームに流れを持ってこられるような、そういう貢献の仕方をしたい。何とか今年はチームに貢献できたと思って終えられるような1年にしていきたいと思っています」
大学時代の仲間やファン、チームの思い。みんなの夢を乗せてマウンドに向かう背番号「20」の姿が、今から楽しみだ。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)