第2回:労使交渉の長期化とルール改正は大谷にどんな影響を及ぼすのか
アリゾナ州のメサでは、今、選手会主催の合同キャンプが行われている。
泥沼化を呈するMLB・オーナー側と選手会の労使交渉は現地時間3月1日(日本時間同2日、以下現地時間)に決裂して、27年ぶりの開幕延期と2カード分の中止が決定。その後も話し合いを続けてきたが、9日の交渉でも合意に至らず、さらに開幕が遅れることになった。
最大の争点である、年俸総額(ぜいたく税課税の基準額)について、機構側は今季を2億3000万ドル(約253億円)まで引き上げ、選手会側に歩み寄る姿勢を見せたが、選手会の要求する2億3800万ドル(約262億円)との隔たりは依然として大きく、さらに長期化も予想される。
そんな、膠着状態に業を煮やした選手会が用意したのが合同キャンプだ。
今季のメジャーは経営者側によるロックアウトで球場施設は使えない。そこで選手会が独自に練習場所を提供して、本番に向けた調整を進めようと言うもの。申し込んだ選手から一定数を、アリゾナに集めて、リーグや球団に関係なく“呉越同舟”のミニキャンプが行われている。
関係者の話では、大谷翔平選手もすでに申し込みを済ませて、今週末には姿を見せると言う情報もあり、現地では選手間でも大谷の話題で盛り上がっていると言う。二刀流の大谷がどんな投球を見せ、どんな破壊的な打球を披露するのか。メジャーリーガーでも、特別な存在であることをうかがわせる。
打者・大谷にとってプラス材料の多いルール改正
不透明な開幕を前に、MLBでは今季から様々な変更やルール改正が決まっている。
主なものにはナショナルリーグもDH(指名打者)制に移行。極端な内野シフトの禁止、各塁のベースの大型化、投球間隔の制限(ピッチクロック)などが挙げられる。
これらの改革はすべて二刀流である大谷に影響を及ぼす。特に注目されるのは前記の二つだろう。
これまでアメリカンリーグだけで採用されていたDH制をナリーグも採用することは大谷にとって確実にプラスに働くだろう。これまでナリーグとの試合では先発以外では代打起用に限られ、打席数が少なかった。本塁打王争いをしたゲレーロJr.らとの差は歴然、それがナリーグでも二刀流が可能になれば、昨季以上の成績も望める。
さらに、対大谷用で一、二塁間に3人が守る変則シフトも今季からは禁止。
近年メジャーでは、データ解析が進み各打者の打球方向に合わせた極端な守備シフトが敷かれてきた。大谷を例にとれば、昨季の打球方向は右に46.6%、中に30.6%で、左方向は22.9%。つまり、一、二塁間に3人で守れば8割近い打球が「網」にかかる計算となる。
これが新ルールで通常に近い守備態勢に戻れば、安打の確率は上がる。昨季.257に終わった打率アップにも追い風となりそうだ。加えて、スピーディーなプレーの促進とケガの防止を兼ねて行われるベースの大型化は本塁から一塁までで約8センチ、一塁から二塁まで約12センチ短くなると試算されている。快速の大谷には内野安打と盗塁数の増加に直結する。
ここまでを見れば、打者・大谷にとってプラス材料の多いルール改正だが、投手としては逆に変則守備シフトの廃止でマイナスとなる要素もある。
特にエンゼルスのジョー・マドン監督は極端な守備シフトで話題を集めた策士だけに得意手を封じられることになりかねない。投手受難とも呼ばれる今回の改正に大谷が投打でどんな結果を残すのかも注目だ。
労使交渉の長期化で大谷のFA権取得がずれ込む?
もう一つ、大谷には大きな問題が残されている。順当なら来オフにも獲得するはずだったFA権の取得問題である。
労使交渉の長期化で、年間162試合の試合数が削減される。21年からエンゼルスと2年間契約を結んでいる大谷の場合、今季は172日の登録で5年目を終えると6年目の23年オフにFA権を取得できるはずだった。ところが開幕延長と162試合から短縮となれば、登録日数の不足でFA権は24年にずれ込む公算が出てくるのだ。
すでに、FA後の大谷の去就は米マスコミで大きく取り上げられている。
ワシントンポスト紙では二刀流で活躍、アリーグのMVPに選出されたことで年俸を5800万ドル(約66億7000万円)と算出。
今季の年俸が550万ドル(約6億3000万円)だから10倍以上に跳ね上がる。他メディアでは総額4億ドル(約460億円)以上の大型契約まで予想されていた。
ところが、23年オフなら29歳の大谷が24年オフまでFA権取得がずれ込むと、様相は変わってくると言う。メジャーでは30歳を過ぎた選手との長期契約は危険と言う見方が支配的で、大谷でも例外ではないと言うのだ。
ルール改正で笑い、労使交渉の泥沼で泣くのか。いずれにせよ、一刻も早く大谷の二刀流第二幕を待ちわびているのは日本のファンだけではない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)