白球つれづれ2022~第11回・開幕4番に指名された牧に求められるもの
2年目のジンクスなどどこ吹く風。DeNAの牧秀悟選手がオープン戦から飛ばしている。
13日現在、打率.440は規定打席不足ながら文句なし。三浦大輔監督も早々と今季の新4番に指名した。入団2年目の開幕4番となれば、1960年の桑田武以来、球団史上62年ぶりの快挙となる。3月25日からの開幕カードは広島戦。大瀬良大地、森下暢仁らの好投手を相手に若き主砲がどんな打撃を見せるか、注目が集まる。
DeNAの弱点を補う「新たな4番像」
打率.314は首位打者の鈴木誠也選手(前広島)に3厘差。22本塁打を加えた新人の3割+20本は長嶋茂雄(巨人)石毛宏典、清原和博(共に西武)に次ぐ史上4人目。8月の阪神戦ではサイクル安打を記録、これも新人では初の快記録だった。
指揮官が、牧に4番を託す裏にはチーム改革の狙いもある。
昨季のセリーグ打撃成績を見ると牧を筆頭に、桑原将志、佐野恵太、宮﨑敏郎各選手がベストテンに名を連ねた。わずかに規定打席不足ながらタイラー・オースティン選手も3割をマーク。
これだけの強打線を擁しながら最下位は、投手陣の弱さが最大の原因だが、それだけではない。
チーム打率(.258)はリーグ2位ながら、犠打81は同5位に盗塁31は同ワースト。つまり打線が繋がれば無類の爆発力を発揮するが、小技を絡めた得点パターンがないに等しかった。
こうした現状を踏まえた時、安打、本塁打から進塁打までソツなくこなせる存在は牧しかいない。主砲であり、つなぎ役も出来て、なおかつ勝負強い。新しい4番像が求められているわけだ。
キャンプではコロナ感染で出遅れた。それでも復帰すると、すぐに安打を量産できる。右にも左にも快打を連発する打撃センスの良さは群を抜いている。
「ニュー・マシンガン打線」の形成に今季から石井琢朗、鈴木尚典の新たな打撃コーチが加わった。
キャンプから石井コーチを中心に「右打ち」の練習を徹底。オープン戦でも随所に意図のある打撃が見られるようになった。
「3割打者でも7割は失敗する。その7割の中身をいかに良くするかが大切」と石井コーチは説く。すでに、牧の姿は「生きた教科書」となっている。
3割、100打点を今季の目標に掲げる牧のもう一つの宿題は二塁手としてフル出場だ。昨季は137試合出場で71打点。不動の4番に座れば不可能な数字ではない。
不動の4番として“打高投低”のチームを牽引できるか
昨年はヤクルト、オリックスと前年の最下位チームがリーグ覇者となった。DeNAのチームスローガンである「横浜反撃」も、狙いは上位浮上から頂点獲りにある。
だが、キャンプからオープン戦にかけて、チームには多くのアクシデントが襲った。
首位打者経験のある佐野は右腹斜筋肉離れ、機動力野球を期待する森敬斗選手が右脚肉離れと捻挫、正捕手を狙う伊藤光選手が右足痛。さらに開幕投手の本命と目されていた今永昇太投手まで左前腕部の炎症でリタイアとご難続き。新任の斎藤隆投手コーチも軽度の脳梗塞に倒れている。
それでもオープン戦の好成績(14日現在6勝3敗2分け)はマイナス部分を補う全員野球が結実しているからだろう。
エース不在の投手陣は今年も不安が残る。しかし、強打線が投手陣を育てた例もある。
18、19年とパリーグを連覇した西武は、まさに“打高投低”を絵に描いたようなチームだったが「中盤で2~3点リードされていても負ける気がしなかった」と選手たちは語っている。
もっとも、当時の西武には豪打の裏に隠れた機動力やソツのないプレーが実践されていた。DeNAの反撃にも必要不可欠な条件となる。
牧のライバルである阪神の佐藤輝明選手も新たな4番打者として期待がかかる。豪打の佐藤か、柔軟で勝負強い牧か。
球界の顔となる出世レースからも目が離せない。不動の4番がいてこそ、チームの土台は出来上がる。
その主砲が前年以上の働きを見せた時、横浜の反撃が現実となるはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)