コラム 2022.03.18. 07:08

「パワプロ」と「イチロー」が誕生…1994年春の革命

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90年代、イチローとパワプロが野球界を変えた (C) Kyodo News

野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第2回:パワプロとイチロー


 野球ゲームの歴史は、「リアルさ」への挑戦の軌跡でもある。

 テレビ中継風画面で野球ファンの度肝を抜くも、細部の詰めの甘さが惜しかった『燃えプロ』シリーズ。ファミコン野球ゲーム史上初めて日本野球機構に許可を取り、選手実名化を果たすもプレー部分はリアルには程遠かった『スーパーリアルベースボール』。人気女子アナの実写を取り込み、試合後のプロ野球ニュースを再現させて「いやおじさん、頑張るのはそこじゃない気が……」と少年たちを絶望させた『パワーリーグ』シリーズ…。




 それぞれ健闘はしたものの、絶対王者『ファミスタ』の牙城を崩すまではいかなかった。まだ80年代から90年代初頭にかけてはハードの機能的制約も多く、リアルな野球ゲームへのハードルは恐ろしく高かったのだ。

 ドット絵で実在の球場や選手を描こうとすればするほど、肝心の野球パートが薄くなる。そんな中、思い切って見てくれのリアルさを捨て、プレー面でのリアルさに振り切れた革新的な野球ゲームが出現する。

 1994年3月11日にコナミから発売されたスーパーファミコン用ソフト『実況パワフルプロ野球’94』である。



パワプロは野球ゲームの革命だった


 選手をデフォルメされた丸っこい“パワプロ君”で統一する一方で、キャラごとに「対左投手○」や「代打の切り札」といった個々の特徴をつけて補完する。

 プレー面では、変化球の軌道やコースの高低、さらに打者目線のミートカーソルという概念を持ち込み、実際の野球さながらの駆け引きを実現させた。

 野球ファンは野茂英雄のフォークボールのありえない落ち方や、伊藤智仁の高速スライダーのエゲツない曲がりを『パワプロ』で追体験したのである。


 発売直後のゲームコミック『ファミコン王国』(双葉社)のパワプロ紹介記事を確認すると、「実況中継がグンと試合を盛り上げる!」と意外にも最大のウリは、当時のゲームとしては画期的なプロのアナウンサーによる臨場感あふれる音声実況だった。

 それが、発売後は瞬く間に野球のプレー部分の再現力が評判を呼ぶ。のちに次世代機と呼ばれる32ビット機のプレステやセガサターンにも移植されたが、操作性はスーファミ版がダントツと言われるほど完成度が高かった。


パワプロ発売直後にイチロー登場


 さて、初代パワプロ発売から約1カ月後の94年ペナント開幕直前、その後の球史を変える重大な出来事があった。オリックスブルーウェーブの鈴木一朗という3年目の若手選手の登録名が「イチロー」に変更されたのだ。

 とはいっても、そのハタチの才能は高く評価されながら、当初マスコミの注目は隣の“パンチ”こと佐藤和弘に集まるほど無名の存在だった。

 前年の鈴木は監督とそりが合わず打率.188に終わるも、この春のオープン戦で12球団最多の30安打を放ち、2発の満塁弾もかっ飛ばして「花のパ・リーグ大賞」(オープン戦の最優秀選手)に選出。仰木彬新監督のもと「イチロー」に生まれ変わった男は、振り子打法を武器にヒットを量産して瞬く間にスーパースターとなる。


 しかし、当時のパ・リーグの注目度は低く、スポーツ新聞は連日のように巨人のゴジラ松井を大きく報じた。

 初めて一面を飾ったのは94年6月25日の日刊スポーツで、その前日に背番号51は史上最速のシーズン100安打を達成している。もちろん、史上初の200安打達成の翌朝9月21日は、主要6紙の一面独占だ。

 『ベースボールマガジン1994年プロ野球総決算号』によると、イチロー効果でオリックスは93年に前年比マイナス4.4%だった観客数が、一気にリーグトップの18.6%増。球団新記録の118万人をグリーンスタジアム神戸に動員した。

 気が付けば、ひとりの天才打者の出現で球界のパワーバランスそのものが変わろうとしていた。そう、パワプロの登場により、野球ゲーム界に革命が起きたようにだ。


君はイチローを抑えられるか?



 さて、パワプロ1作目にイチローは間に合わず(もちろん当時はネットを介した選手データのアップデート機能はなかった)、94年12月発売のプレステ用ソフト『実況パワフルプロ野球’95』で初登場。そして、94年シーズン終了時のデータをもとに95年2月に出たスーファミ版『実況パワフルプロ野球2』のシナリオモード、千葉ロッテマリーンズ「最後の山場」編は、9月20日の対オリックス戦・9回裏の守りを取り上げている。

 「この日イチローが6回に放った3本目の安打が200本目で、その二塁打をきっかけにオリックスは一気に1点差まで詰め寄った。そして最終回、連続四球で一死一二塁のチャンスに再びイチローに打席が廻ってきた」(『実況パワフルプロ野球2』説明書より)


 君はいかに絶好調のイチローを抑えるのか……?

 もはやそれがゲームとして成立してしまうリアル(実際にプレーしてみるとどこに投げても打たれる難易度の高さ)。前年パ・リーグ新記録の打率.385をマークした背番号51はすでにそういう存在になっていた。


 オリックスが初優勝を飾った95年には首位打者・最多安打・打点王・盗塁王・最高出塁率の打者五冠(本塁打トップにも3本差)に輝き、2年連続のMVPをはじめとした各賞を総なめにしたが、96年2月発売の『実況パワフルプロ野球3』では、イチローが打席に立つとイチローコールが鳴り響く特別仕様が実装され、選手データは「ミート6・パワーA・走力A・肩力A・守力A」で「チャンス」「内野安打」「対左投手」「盗塁」「返球」に○がつくパワプロ史上最強の選手として君臨する。

 当時、兄弟や友達でパワプロを対戦すると、イチローを使いたくてオリックスを選ぶ少年が続出。大型補強の長嶋巨人ばかり選んでいると、教室でのあだ名が“ナベツネ君”になるというなんだかよく分からない事態に。たかが野球ゲーム、されど野球ゲーム。昭和も平成も、野球ゲームは時代を写す鏡だ。約10年前の初代ファミスタでは、阪急・近鉄・南海の関西鉄道系連合チーム「レールウェイズ」でまとめられていたことを思えば、時代は確かに変わったのである。


 パワプロで投打の駆け引きと同様に革新的だったのが、前例のないオリジナリティーにあふれる守備・走塁面の作り込みだ。

 これまでの野球ゲームは一様に守備面がアバウトなシステムだった。全員異様に肩が強かったり、守備側だけ凄まじいスピードで走れたり、あくまで投手と打者の対決がメイン。だが、パワプロではバントシフトに前守・後守の駆け引き、ゲッツーの爽快感、外野を抜けた打球の中継プレーの重要性と、野球ゲームにおける守備をエンタメ化することに成功した。それはまさに、実際に球場で背番号51が強肩レーザービームにイニング間の背面キャッチと、守備をも目を離せないエンターテインメントの領域まで押し上げたのと同じ現象だ。


 90年代、イチローとパワプロは野球を変えたのである。

 さて、20世紀も終わろうとしていた頃、そんな全盛期のイチローに西武ドームで真っ向勝負を挑んだ規格外の高卒ルーキー投手がいた。弱冠18歳の“平成の怪物”松坂大輔である。


(第3回『プレステと松坂大輔』編へ続く...)


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

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