白球つれづれ2022~第14回・再びクローズアップされた「野球留学」の是非
出る杭は打たれる? 春の全国高校野球センバツ大会は、大阪桐蔭高の優勝で幕を閉じた。
だが、3月31日の決勝から1週間近くがたつのに、“ある問題”がクローズアップされて物議を醸している。
近江高との決勝戦は18対1の記録的なスコア。それだけではない。準々決勝の市和歌山高戦が17対0、準決勝の国学院久我山高戦も13対4の爆勝。
この間に4番の丸山一喜選手は8打席連続安打の大会タイ記録を樹立する。チームとして大会11本塁打は新記録。昨秋から続く連勝は20まで伸びた。
「強すぎる桐蔭」を巡って、高校野球のあり方まで問われ始めたのだ。
大阪桐蔭の一強独占であぶり出された“元凶”
いわゆる、野球強豪校は今回の大阪桐蔭だけではない。スポーツによる人間教育を推し進める学校は多いし、私学の場合は知名度が全国区まで上がれば、生徒も集めやすくなる。それが強いては学校経営に大きく寄与する。
しかし、今回の同校への問題提起は、選手の勧誘が度を過ぎていないか? さらには私立校と公立校のバランスが著しく悪化していないか? と言う高校野球そのものの意義が論じられている。
長年、タブー視されてきた“元凶”が、皮肉にも大阪桐蔭の独り舞台で、あぶり出された格好なのだ。
同校のベンチ入り18人の出身地を見ると大半が「野球留学組」で、京都、滋賀、和歌山、兵庫と言った近隣はもとより、愛知、石川、千葉、熊本など全国にわたり、地元の大阪出身はわずかに4人だけと言う。
もちろん、選手たちに罪はない。大阪桐蔭のユニホームに袖を通すことが出来れば、甲子園出場はもとより、全国優勝の確率は高く、それが強いてはプロ入りへの夢に広がる。
元中日監督の落合博満氏も「高校生でこれだけバットを振り込んでいるチームは中々ない」と賞賛するように、好素材がレベルの高い練習と生存競争を勝ち抜くのだから「プロ予備軍」と言っても過言ではないだろう。
だが、高校野球関係者でも眉をひそめるのは、一強独占による全体に及ぼす影響である。他の野球強豪校でさえ、「今の桐蔭は関東や東北まで勧誘の手を伸ばし始めている」と争奪戦の激しさを語る。
一方で、大阪の球児たちが地方に転出する例も多い。これは、桐蔭に進学してもレギュラーになれる確証がない。他の大阪の高校では甲子園出場の夢を果たせる確率が低い、といった理由からだと言われている。
こうした、大阪桐蔭の“一人横綱”状態には意外な人物からも提言が行われている。元横浜高校の野球部長だった小倉清一郎氏だ。
3月31日付の日刊ゲンダイ紙によれば「高野連はそろそろ県外出身者の野球留学を規制するルールを作る時期に来ている。例えばスタメンの県外出身者は4人までにするとか」と語っている。
横浜高と言えば松坂大輔を擁して全国優勝を成し遂げるなどの私学強豪。同校でも県外からの野球留学組は多かったが、それでも今回のチーム作りは度を越していると映っているのだろう。
高野連は今後どのように判断するのか
かつての高校野球は公立校と私学の対決構図が大会を盛り上げた。中でも代表的な例は1984年夏の決勝、PL学園対茨城の取手二高戦だ。
今の大阪桐蔭と同様に全国から野球エリートを集め、桑田真澄、清原和博の「KKコンビ」で話題を独占したPLに対して、茨城の県立校が名将・木内幸雄監督の“木内マジック”で対抗。のびのび野球で見事に取手二高が全国制覇を成し遂げた。
PLのエースだった桑田真澄現巨人投手チーフコーチは「何であそこまでのびやかな野球が出来るのだろう?」と大会終了後に茨城の同校を訪ねている。あれから約40年、私学強豪校と公立校の格差は広がり、そんな“美談”の入り込む余地もない。
今年のセンバツ大会は出場校選考を巡って、秋の東海大会準優勝の聖隷クリストファー高(静岡)が外れ、大垣日大高(岐阜)が選出される選考法に批判が集まった。
大会が始まると最注目の高校通算56発、佐々木麟太郎選手(花巻東)が不発のまま初戦敗退。コロナ禍で京都国際高、広島商高が辞退に追い込まれるなど波乱の多い大会となった。
そして、最後に波紋を呼んだ強すぎる大阪桐蔭の優勝劇。
甲子園は高校球児を逞しくする。しかし、その一方で教育の一環を掲げる高野連は、今のままで良し、とするのか。
歴史と伝統は、今大きな曲がり角に差し掛かっている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)