第17回:「Go Cubs Go!」
オーナー側とMLB選手会による長かった労使交渉も何とかまとまり、MLBは現地4月7日から、今年も例年通り162試合制のシーズンが無事に開幕します。
日本でMLBを楽しむ皆さんにとっては、昨シーズンに歴史的な活躍を大谷翔平選手をはじめとした日本人選手たちの活躍、とりわけ今シーズンからMLBに挑戦する鈴木誠也選手の一挙手一投足に注目していることかと思います。
鈴木誠也選手は日本の報道陣による豪快な誤報→本人がSNSで否定するという一幕を経て、3月18日にシカゴ・カブスへの入団が発表されました。
カブスでプレーする日本人野手としては4人目(投手を含めると9人目)で、日本人野手としては史上最高額、カブス史上でも歴代5位の高額となる5年8500万ドルの契約を結びました。
カブス首脳陣の期待は大きく、カブスファン歴28年の私MOBYも、もちろん楽しみで仕方ありません!
鈴木選手の獲得にあたり、カブス首脳陣はあらかじめチーム、チームメイトやスタッフについて、更にはシカゴの街をよく理解してもらう為の映像を制作し、鈴木選手にプレゼン。それを観た鈴木選手は「泣きそうになった。全て良かった!」と感動したそう。それを経て、3月14日にロサンゼルスの日本食レストラン「Bar Hayama」にて、トム・リケッツ球団オーナーが参加する異例の形で入団交渉が行われました。
終了後、鈴木選手が愛理夫人と一緒に「住むにふさわしい場所かどうか確かめたい」と翌日シカゴに向かい、リグレーフィールドを訪れ、ロッカーに吊されていた背番号27のジャージを見て合意を決意したそうです。
そうそう、ロックアウト期間中に、ボクが仲良くしているカブスの球団職員(映像担当)から「セイヤのワイフはシンガーなの?ウィキペディアでアイリ・スズキを調べたけど、セイヤのことは何も書いてなかったんだよね」との質問が来たので、「セイヤのワイフはアイリ・ハタケヤマ、新体操の選手なんだ。結婚してシンガーのアイリと同姓同名になったんだよ」と教えてあげました。
ボクの情報提供、ほんの少しだけ獲得に貢献したのかも……(笑)
カブスの現状と誠也のライバルは…?
さて、そんな鈴木誠也選手の新天地となるシカゴ・カブスですが、2016年に108年ぶりのワールドシリーズ制覇を成し遂げ、しばらく黄金時代を築いていくのだろう、と誰もが信じていました。
しかし、アンソニー・リゾやクリス・ブライアント、ハビアー・バエズといった主力選手たちが同時期にFAを迎え、契約延長には高額な年俸を支払わなければならなかったこと、その一方でリグレー・フィールド周辺の再開発で支出が多くなっていたところに、予想しなかったコロナ禍による無観客開催で経済的な影響をモロに受け、財政が切迫してしまったのです。
更には補強のためのトレードの代償として放出したプロスペクトが枯渇し、昨シーズン開幕前にはカイル・シュワーバーのノンテンダーFA、ダルビッシュ有のトレード、そして7月下旬には主力選手をトレードで一挙に放出し、もぬけの殻状態に。結局、7年ぶりのシーズン負け越しを喫し、カブスファンは誰しもが「ああ、またいつものカブスに戻ったのか……」と7月末からずっと黄昏気分でした……。
ただこのオフ、ジェド・ホイヤー編成総責任者は「再建ではなく一新」と強調。あくまで勝利を狙っていくチームとしての補強を展開していきました。
今がピークの右腕マーカス・ストローマン、2021年シーズンにノーヒッター達成の左腕ウェイド・マイリーといった先発陣に、経験豊富なベテランのブルペン投手たちを獲得。そこにトレードで獲得した若手有望株たちを融合させ、今までとは違う戦力がある程度揃ってきた中に、野手の目玉として鈴木選手を獲得した形になります。
鈴木選手がレギュラーを獲得するための主なライバルは以下の通りです。
▼ ジェイソン・ヘイワード
左投左打/32歳
チームリーダーで守備の名手、かつカブス史上最高年俸、8年総額1億8400万ドルの7年目。
ただし、打撃はカブス移籍以降ずっと期待以下で、昨年は自己ワースト。今季は定位置のライトからセンターに移る予定。
▼ イアン・ハップ
右投両打/27歳
外野全ポジション、そしてセカンドも守れるユーティリティー。
昨季前半は大不振も、後半に調子を取り戻して自己最多の25本塁打を記録したスイッチヒッター。
自身のコーヒー豆ブランド販売を通じて社会貢献活動にも取り組む。
▼ ラファエル・オルテガ
右投左打/30歳
主にセンター。メジャーとマイナーを彷徨っていた30歳が昨季開花、1試合3本塁打やサヨナラ本塁打などの活躍を見せた。
対右腕.321、対左腕.128と得意不得意がはっきり。
▼ クリント・フレイジャー
右投右打/27歳
元トッププロスペクトは過去にうけた脳しんとうが影響し、ヤンキースで開花出来ず。
ただ今季カブス移籍以降は精神的に解放されたのかキャンプ絶好調。
お洒落スパイクのコレクターとしても有名。
▼ ブレナン・デービス
右投右打/22歳
カブスのトップ・プロスペクト球団1位。
昨年のフューチャーズ・ゲーム(日本のフレッシュオールスター)MVP。
走攻守揃った22歳は今季間違いなく昇格してくるでしょう。
指揮官も期待「スターのメンタリティーを持っていることは明らか」
グレッグ・ブラウン打撃コーチは、鈴木選手について「自分のスウィングに関して深く解釈し、感じ、焦点を当てる方法を理解している。非常にレベルの高い選手」と絶賛しています。
また、2016年のワールドチャンピオンを経たチームにはコンタクトヒッターが少なく、それを改善していく方針だと首脳陣は述べています。選球眼の良さと空振り率の低さに定評があり、NPBで6年連続打率3割以上を記録した鈴木選手の獲得は、チームの方針にあてはまることは間違いありません。
様々なタイプの投手や球種のほか、移動や休みの少ない日程など、アジャストすべきことは沢山出てくるでしょう。さらにはデーゲームの多いカブスのホームゲームでは、鈴木選手が守備に就くリグレー・フィールドのライトは逆光、特に試合後半の西日が直撃します。持ち前の明るさでもって、ホーム開幕シリーズでプレイのリズムとファンの心をガッチリ掴み、西日には愛用しているオークリー社のサングラスで何とか克服して欲しい!
野茂英雄さんや上原浩治さん、ダルビッシュ有投手といった、NPBとMLBの両方で活躍した選手たちとチームを共にしたことのあるデヴィッド・ロス監督は、「セイヤがスターのメンタリティーを持っていることは明らか。チームに上手く溶け込んでいることも際立っている。ユーモアのセンスもある」と評しています。
決して優勝候補とは言えない今シーズンのカブスですが、ファンや現地マスコミの間では面白いシーズンになるのではないか、と期待が高まっています。鈴木選手が活躍を見せれば、自ずとチームの中心的存在になっていくでしょう。そうなれば、カブスはブリュワーズとカーディナルスの二強と目されているナ・リーグ中地区をかき回すチームになっていくことは間違いありません。
これまでにない新しいカブスが観られること、そしてそこで鈴木選手が活躍することを願いながら、2022年シーズンを見守っていこうと思います。
文=オカモト“MOBY”タクヤ(SCOOBIE DO)