「野球ができないんじゃないか」からのV字回復
プロ野球は開幕からまもなく1カ月……。
今季も新型コロナウイルスと付き合いながらのシーズンとなりそうだが、12球団で最も影響を受けているのが楽天だろう。
開幕からちょうど1週間がたった今月初旬には複数選手が陽性判定を受け、2試合が中止に。さらに先週もオリックスとの3連戦がすべて中止になるなど、今季消化した試合は両リーグで最も少ない「14」にとどまっている。
そんな楽天だが、週末はソフトバンクを相手に2連勝。リーグ首位に躍り出た。その原動力となっているのが、「投高打低」が顕著な今季のパ・リーグの中で奮闘するイーグルス打線だ。
17日の試合ではソフトバンク投手陣に17安打を浴びせ、計14得点の猛攻。消化した試合数が断トツで少ないにもかかわらず、62得点はリーグ2位の好成績となっている。
好調な打線を牽引するのが、オフに日本ハムから移籍してきたリードオフマンの西川遥輝だ。
長年にわたって日本ハム打線を引っ張り、2016年にはチームを日本一に導いた俊足巧打の外野手。昨オフには思いもよらぬ“ノンテンダー”で自由契約となり、プロ入り後初めて「フリー」の身となった。
そんな西川を獲得したのが、ここ数年とくに積極的な補強を敢行している楽天である。
昨年12月の入団会見で「もしかしたら野球ができないんじゃないか」という不安な気持ちを明かしていた男は、新天地での目標を聞かれると「全ての部門でキャリアハイを目指して、そして石井(一久)監督を胴上げできればと思います」と答えていた。
実際、移籍1年目の今季は昨季どん底だった打棒が復活。打率.362(リーグ2位)・3本塁打(同2位タイ)・14打点(同1位)と、主要打撃3部門でリーグトップに立つ勢いを見せている。
特に目立っているのが、近年影を潜めていた勝負強さ。得点圏打率はなんと.500(12-6)というハイアベレージをマーク。1番打者ながらリーグトップの打点を稼ぎ出しているというのも頷ける成績だ。
また、西川といえば球界屈指の脚力を持ち主で、これまで4度の盗塁王(2014・2017・2018・2021年)に輝いている。今季はトップと3差の4個にとどまっているが、遅かれ早かれ盗塁王争いには加わってくるだろう。
さすがに自己ベストが10本塁打の西川にとって本塁打王は厳しいが、盗塁王以外にも首位打者や最多安打、最高出塁率に得点王などは十分に狙えそうだ。
新天地で水を得た魚のように暴れまわる背番号6のリードオフマン。
“ノンテンダー”という屈辱からV字回復を果たし、入団会見で掲げた2つの目標もあっさり達成してくれるかもしれない。
文=八木遊(やぎ・ゆう)