どんな場面でも決まり事は欠かさない
中日・大野雄大が6日の阪神戦(バンテリンドーム)で9回完全投球を演じ、延長10回を投げて被安打1の無失点。サヨナラ勝ちを呼び込み、白星を得た。
許した安打は10回二死で佐藤輝明に浴びた右中間への二塁打のみ。打球が弾むと同時に、記者席からエースに目をやった。左腕は一目散に三塁ベースカバーへ走っていた。
大野は「ベースカバーは普通ですよ」と笑っていた。だが、完封を逃す場面、終盤で逆転の一打を食らう場面、ここ一番のシーンで先発投手が必ずしも決まり事を欠かさないかと言われれば、そうでもない現実がある。
日の丸を背負う球界のエースたちでも、表情をゆがめて天を仰いだり、マウンド付近をうろついたり……。ベースカバーへ向かうそぶりは見せても、完全にベースカバーに入る選手ばかりではないと思う。
エースの落ち着き、場面に対処する能力はこの直後にも出ている。
打席は4番・大山悠輔。大野は一度、プレートを外している。
そのまま、二走・佐藤輝をギッと見た。警戒するのが守る側の努め。記者席からは、黙ってジッと立っとけ、と目で訴えているように映った。
捕手・木下拓哉は「ボクは(プレートを外せの)サインは出していませんよ」と話した。大野は自らの判断で、走者を最大限ケアして主砲と対峙。二飛に抑えて、サヨナラ勝ちを演出したのだ。
みんなから愛されるエース
マウンドの振る舞いはプレーヤーとしての価値を、その後のコメントは人間性を表す。
「チームが何とか勝ってくれたらいいなと思っていた。僕は10回で降板すると決まっていました。タカヤ(石川昂弥)が打ってくれると思っていました」
石川のサヨナラ打を確認して満面の笑み。33歳エースは、売り出し中の20歳をねぎらった。
試合後のロッカー。出迎え、9回完全をたたえた投手陣、チームメートに「結局、ただの完封じゃんかよ~(笑)」とからかわれたのだとか。
大野の人柄あっての周囲の言葉。エースは照れ笑いを浮かべ、ロッカーは大笑いする声が響いたという。
試合のポイントは抑えつつ、かといって窮屈にはならない。肩肘張らず、他者に敬意を払うから愛される。
厳しい勝負の世界の中に、希有な存在として大野雄大は一目置かれている。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)