数分で天国から地獄へ
完封勝利目前から、まさかの敗戦投手に……。広島の右腕・遠藤淳志は、わずか数分間で「天国から地獄」へと突き落とされた。
17日に宇都宮で行われた巨人−広島3連戦の第1ラウンドは、2点を追う巨人が9回裏に一挙3点を挙げてサヨナラ勝ち。この結果、巨人が2位に浮上して広島は3位に転落した。
8回までは広島が完全に主導権を握っていた。
この日の先発マウンドに登ったのは5年目・23歳の遠藤淳志。初回からエンジン全開で投げ進め、2回に2点の援護をもらうと、8回まではほぼ完璧な内容で巨人打線を手玉に取った。
微妙な狂いが生じ始めたのは、8回裏二死の場面。先頭の大城卓三と立岡宗一郎を内野ゴロに仕留めたまでは良かったが、代打で登場した中田翔に対しては、初球ストライクの後は4球連続でコースを外し一塁に歩かせた。続く丸佳浩に対しても制球が定まらず、カウント3ボール・1ストライクとなったが、最後はなんとかボール球を振らせて事なきを得た。
さらにカープファンに嫌な予感が漂ったのが、9回表の攻撃時だろう。
連打と犠打、故意四球で一死満塁と攻め立てると、遠藤に打席が回ってくる。点差はわずかに2点、8回までに109球を投げていたこともあり、代打という選択肢もあったはず。
ところが、遠藤がそのまま打席に向かうと、初球を叩いて遊ゴロの併殺打。一塁まで全力疾走した後、その裏のマウンドへと向かった。
そして、嫌な予感は現実のものとなる。
先頭のアダム・ウォーカーと続く吉川尚輝に連打を浴びて一・二塁のピンチを背負うと、岡本和真に対しては明らかに高めにボールが浮いて四球。無死満塁となり、ここでようやく佐々岡真司監督の重い腰が上がった。
遠藤に代わって新外国人左腕のニック・ターリーがマウンドに登るも、押せ押せの相手に2者連続で適時打を浴びて3失点。手痛い逆転サヨナラ負けを喫した。
投手出身監督ならではの想い
やはり敗因として挙げられるのは、佐々岡監督の継投の遅れだろう。
9回表のチャンスで遠藤が打席に立った場面、もしくは9回裏の先頭打者を出した場面でも交代が頭をよぎったはずだ。
しかし、投手出身の佐々岡監督とすれば、遠藤に完封勝利を飾らせてやりたいという温情もあったことだろう。結果的に、この采配は裏目に出てしまった。
9回裏に3人の出塁を許し、マウンドを譲った遠藤にとっても痛恨の結果となった。
もし8回無失点のままでマウンドを降りていれば、防御率は「1.99」となるはずだった。ところが、3人の走者がすべて生還したため、逆に試合前の「2.48」から「2.66」に悪化する羽目に。
さらに、あと1つアウトを取っていれば規定投球回にも到達していた。もし無失点で終えていれば、1日限りではあったが投手成績の第2位に名を刻むこともできたはずだった。
今季3勝目と防御率ランキング2位、そして防御率1点台。すべては幻と化してしまったが、8回まで披露した投球は間違いなくエース級のそれだった。
このままローテーションに定着するためにも、次の登板が非常に重要となりそうだ。
文=八木遊(やぎ・ゆう)