コラム 2022.06.29. 07:08

落合博満監督が評価した「井端の併殺打」…思いもよらぬ形で勝利に貢献した男たち

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中日時代の井端弘和氏 (C) Kyodo News

13年ぶりの「サヨナラ内野ゴロ」


 「打のヒーロー」といえば、決勝の適時打や決勝犠飛、あるいは決勝スクイズでチームに勝利をもたらした選手がほとんど。

 しかし、時にはそんなイメージとは裏腹に、思いもよらぬ形で“勝利の立役者”が生まれるシーンもある。




 足や小技とはおよそ縁遠いイメージがあるのに、思いがけず自らの足でチームの勝利に貢献したのが、楽天時代の山崎武司だ。

 2007年9月12日のオリックス戦。5-5で迎えた9回裏、楽天は藤井彰人の中前安打を足場に、2つの犠打と敵失、さらに四球を絡めて、一死満塁と一打サヨナラのチャンスをつくる。

 そして、この場面で最も頼れる4番・山崎に打順が回ってきた。



 「絶対に自分で決める」と集中力をマックスに高めた山崎は、センターに抜けようかというゴロを放つ。

 だが、守るオリックスも「サヨナラ負けだけは御免」と必死。ショート・後藤光尊が執念で追いつき、二塁送球で二死としたあと、ボールは一塁に転送された。

 サヨナラ適時打が一転、併殺打で3アウトチェンジ……。そんな最悪の結果だけは何としても避けたい山崎は、全力疾走で一塁ベースを駆け抜けたあと、勢い余って派手にスッテンコロリンと転倒した。

 栄村隆康一塁塁審の判定は「セーフ!」。この瞬間、1994年10月6日にロッテ・平井光親が近鉄戦で記録して以来、13年ぶりのサヨナラ内野ゴロが記録された。


 ちなみに、平井の記録は投ゴロの二塁送球の間に遊撃手と走者が交錯して転倒している間に決勝点が入ったもので、併殺崩れによるサヨナラ内野ゴロは、1990年5月8日にダイエー・湯上谷宏が近鉄戦で記録して以来、17年ぶりの珍事だ。

 “一世一代の激走”で勝利のヒーローになった山崎は「こんな足で貢献できるのは、(出場した)1500試合で初めてじゃないか。ヒットじゃないけど、勝ちましたから許してください」と照れることしきりだった。


“好機”に水を差したはずが……


 スクイズに失敗した直後、ラッキーが重なって結果オーライでチームの勝利を呼び込んだのが、ヤクルト時代の田中浩康だ。

 2008年7月17日の阪神戦。ヤクルトは0-0の9回、3つの四球で一死満塁のチャンスをつくった。

 高田繁監督は次打者・田中にスクイズを命じたが、久保田智之のフォークを空振りしてしまう。

 ところが、ボールが本塁手前で大きく弾み、捕手・矢野輝弘が前にこぼしたことが幸いする。

 この間に投球と同時にスタートを切り、「(矢野が)弾いたので突っ込むしかない」と瞬時に判断した三塁走者・福地寿樹がホームイン(記録は本盗)。

 飯田哲也守備・走塁コーチも「下手な走者だと、止まっちゃうんだけどね」と感心する好走塁だったが、福地は「田中がうまくどいてくれたし、ナイスプレーでした」と好アシストの田中に花を持たせた。


 そして、福地の快走はさらなる快挙をもたらす。

 二塁走者・青木宣親と一塁走者・武内晋一(畠山和洋の代走)もそれぞれ進塁したことから、リーグ12度目の「トリプルスチール」が記録されたのだ。

 ちなみに、福地と青木は畠山が四球で出塁する前の一死一・二塁でも重盗を決めており、その後、二死一・三塁で一塁走者のウィルソン・バルデスも二盗を成功させたことから、1950年6月5日の南海以来、58年ぶりの「1イニング6盗塁」というNPBタイ記録も生まれるオマケもついた。


 そんな“押せ押せムード”のなか、なおも一死二・三塁で田中は投ゴロに倒れるが、なんと久保田が本塁に悪送球。青木と武内の二者が生還し、適時打なしの3得点はいずれも好機に水を差したはずの田中がキーマンとして絡む珍事になった。

 3-0の勝利後、高田監督は「(田中が)スクイズを決めてくれたら良かったんだけどね」とボヤきつつも、「福地の足で1点入ったから結果オーライ。いい勝ち方だったね」と「ヒョウタンから駒」のような快勝にまんざらでもなさそうだった。


落合監督「周りは理解できないかもしれない」


 無死満塁で併殺打だったにもかかわらず、監督に怒られるどころか逆に褒められたのが、中日時代の井端弘和だ。

 2010年4月15日の横浜戦。1回に森野将彦の二塁打で先制した中日は、1-0の4回にも連打と四球で無死満塁のチャンスをつくったが、井端は遊ゴロ併殺に倒れてしまう。

 だが、落合博満監督は、ベンチに戻ってきた井端を「よくやった」と握手で迎えた。併殺の間に貴重な追加点が入ったからだ。

 さらに次打者・野本圭の適時打でもう1点を加えた中日は、8回にもトニ・ブランコの一発を含む5連続長短打で4点を追加。7-4と快勝した。

 結果的に井端の併殺打の間に入った2点目が、試合の流れを大きく左右したことになる。


 試合後、落合監督は「2点目が大きかった。あそこで最悪は三振かポップフライで、次の打者が併殺という攻撃。あの1点がなければ、3点目もない。ああいう野球でいいと7年言いつづけているが、なかなかできない。周りは理解できないかもしれない。でも、点取りゲームで、あの1点がどれだけ貴重だったか」と振り返った。

 思いがけない形で勝利のヒーローになった井端はその後、同年6月5日のロッテ戦で史上105人目の通算1500安打を達成している。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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