忘れられない7月6日
まだ1年か、もう1年かは分からない。
ただ、中日・木下拓哉はハッキリと覚えていた。
「あの日は地方でゲームがありました。群馬ですよね……」
6日、今月末に行われる「マイナビオールスターゲーム2022」のファン投票の最終結果が発表された。竜の正捕手は初めてトップとして選ばれた。
その日からちょうど1年前の2021年7月6日。チームメイトで昨夏亡くなった木下雄介さんが倒れた日だった。木下拓は前橋で巨人戦に臨んでいた。
投票結果を受けた会見では、故人をしのび、思いをはせた。
「オールスターだけではないですが、今一度、プレーできているのは当たり前ではないと、本当に、胸において、やりたいです。後輩ですが、彼なら『ようやったっすね』と褒めてくれたと思います。普段から彼と一緒にプレーしています。彼が高校時代、独立リーグ時代に過ごした四国で開催されるのは楽しみです」
木下雄さんは大阪出身。高校と独立リーグは徳島でプレーしている。
戦友の想いも背負って…
木下拓にとっては、2年連続のオールスター出場となる。
1年前は監督選抜。昨季は7月中旬の開催だったから、木下雄さんが他界してから初の球宴となる。
特別なロゴをあしらったグラブで出場することを決めた。
今季から用具メーカー「ミズノ」とブランドアンバサダー契約を結んでいる。ロゴには、木下雄さんの背番号「98」をあしらった。グラブやエルボーガードに刻んである。
メーカー側と話し合い、オールスター用のグラブづくりに着手。もちろん、ロゴ入りになる。
木下雄さんを思い、ファンを喜ばせる球宴。
「個人としてもチームとしても成績がふるわず、『ヨッシャ』という感情ではありませんが、投票してくださったファンの方に感謝します。元気なプレーを見せます」
対戦したい投手には、昨季までのチームメイトでソフトバンクへ移籍した又吉の名前を挙げた。
「真っすぐとカットボール、どっちが来るかわかりませんが、オールスターの舞台。対戦する機会があったら、球種は考えずに思い切ってスイングしたいと思います」と意気込んだ。
又吉もまた、木下雄さんの死に心を痛めた。同じ独立リーグ・四国アイランドリーグ出身者に期待を掛けていた。
ファン投票や選手間投票など、選ばれ方はさまざま。
ファンに選ばれた木下拓は、木下雄の分も背負って、ハツラツとプレーする使命を自らに課している。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)