白球つれづれ2022~第28回・清宮幸太郎がプロ5年目でついに覚醒か?
早実高の大先輩、王貞治氏(現・ソフトバンク球団会長)なら、こう言うに違いない。
「元々、持っている素質は凄いものがある。むしろ、遅すぎるくらいじゃないかな?」
日本ハム・清宮幸太郎選手の打撃進歩に目を見張るものがある。
11日現在(以下同じ)チームトップの11本塁打に5試合連続適時打を記録中。特に7月の声を聞くと、直近の7戦で4発を放ち、月間打率も3割台と“猛爆中”だ。プロ5年目の覚醒なのだろうか?
BIG BOSS・新庄剛志監督が手放しで激賞したのは9日のソフトバンク戦の11号本塁打だった。
日本ハム1点リードの7回。武田翔太投手が2-2から投じた外角低めのストレートを力感なく振り抜いた清宮の一打はバックスクリーン右に達する圧巻の長距離弾、チームに貴重な追加点をもたらす勝利に新庄監督の興奮は続いた。
「追い込まれてから、あの弾道でバックスクリーン横でしょう。いやー、びっくりした。今まで見た日本人打者のホームランで一番じゃない?」
指揮官をここまで喜ばせたには訳がある。
今季、何度も清宮には「当てに行くスイングはして欲しくない」と苦言を呈してきた。仮に武田のウイニングショットであるフォークボールに空振りでもOKだと言う。天性の長距離砲に求めるのは、相手を震え上がらせる豪快なスイング。まさにそれを実践できたからこそ極上の合格点を与えたのだろう。
5年目の急成長は「心・技・体」に見て取れる。
中村奨成(広島)、安田尚憲(ロッテ)と並ぶ「高校ビッグ3」と騒がれた17年のドラフトでは清宮が一番人気、通算111本の本塁打記録を打ち立てて、過去最多の7球団から指名を受けた。甲子園のヒーローで、怪物を彷彿させる風貌も手伝って、話題を独占する。
だが、人気だけで通用するほどプロの世界は甘くない。同期の村上宗隆には大きく水をあけられ、昨年はチーム方針もあって年間を通して2軍暮らしが続いた。
新たに誕生した新庄監督下では、全員がトライアウト状態、いつ、ファームに落とされてもおかしくない。シーズン序盤には、後輩の万波中正選手らが先にブレーク、「のんびり屋」の清宮の心に火がついた。
5年目で天性のスラッガーとしての片鱗を見せる
技術的には最大の欠点と指摘されていた「手首の返し」が矯正されたことが大きい。従来、強靭なリストを効かして鋭い打球を飛ばしてきたが、右手首を早く返してしまうために、いわゆる「手首でこねる」から、右方向の打球はファウルになりやすい。打球も上がらない悪癖となっていたのだ。
今春のキャンプでは稲葉篤紀GMらが付きっきりで指導、中でも手首が返りすぎないように、特性バットでティー打撃を繰り返した。
その結果は数字にも表れている。今季放った52安打中、実に32本が長打で単打はわずかに21本。さらに強打者の指標となる7月のOPS(出塁率+長打率)は1.201と村上や山川穂高選手クラスの破壊力だ。
1年目には右手母指骨折、2年目も右手有鈎骨骨折など故障に泣かされてきた体力面もやっとプロ仕様になってきた。今季は指揮官からの指令もあり、約9キロの減量に成功。体の切れが豪打につながっている。
とは言え、村上のような逆方向への本塁打は少ない。得点圏や対左投手への課題も残っている。しかし、今季20本塁打以上の実績を残せば、来季の更なる飛躍につながることは間違いない。
BIG BOSSは就任時に「7人くらいのスター選手を作りたい」と語った。来年開業する新球場に合わせたチーム改造計画である。
エースの上沢直之、伊藤大海両投手に松本剛、野村祐希選手あたりは実績面でも文句なしだが、清宮の名前もぜひ欲しい。全国区の人気と将来に本塁打王まで狙える素材はなかなかいない。
依然として、チームは最下位に沈んでいるが、直近は4連勝をマークするなど上げ潮ムードに乗りつつある。その中心に清宮がいる。
高卒の強打者が誕生するのは入団から4~5年目が最も多い。清宮もまた「適齢期」に差し掛かっている。これ以上の回り道は許されない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)