コラム 2022.07.15. 07:08

“ファミコン野球ゲーム初の実名化”を実現させた衝撃の問題作『スーパーリアルベースボール』

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NPB公認なのに問題作?「スーパーリアルベースボール」

野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第9回:スーパーリアルベースボール


 ボールが捕れない。かつて、そんなありえない難易度の高さと操作性の悪さで話題を呼んだ野球ゲームがあった。

 1988年7月30日に発売されたファミコンソフト『スーパーリアルベースボール』である。




 球団名や選手名がすべて実名で登場。“史上初めて日本プロ野球機構が承諾した野球ゲーム”という大きなウリを持つ本作のパッケージでは、巨人のクロマティがご機嫌にピースサインをきめている。

 箱裏面の「あらゆる機能でアイツのゲームに差をつける」なんて絶対王者『ファミスタ』への宣戦布告ともとれる一文に、誇らしげに説明書に刻まれた「プロ野球12球団面白認定ゲーム」のキャッチコピー。

 これは最高の野球ゲームかもしれない……。少年たちがそんな淡い期待を胸に抱いてカセットに無意味にフーッフーッと息を吹きかけ起動させると、オープニング画面にはこの年開業したばかりの東京ドームが華々しく登場。もちろんソフトのラベルにもBIG EGG公式ロゴがデザインされ、例によって箱裏面には「スコアボードまで東京ドームにそっくり」と怒涛のビックエッグ推しだ。なお、発売元のバップは日本テレビの子会社である。



 だから、テレビCMもクロマティなのか……という大人の事情はおいといて、まずチーム選択画面に実名球団が並んでいるだけで涙が出るほど感動。このシーズン限りで身売りする「南海」や「阪急」もしっかり収録されている。

 選手も平仮名とカタカナ表記ながらすべて実名だ。マジで広告通りの「くろまてがクロマティになる」である。






異常な難易度の高さ


 当時、クラスメートのK君がこのソフトを買って、遊びに行った際にワクワクしながら初プレイ。なぜか無言で、隣のK君が意味有りげな笑みを浮かべていた意味を数十秒後に理解することになる。

 投球時、速球は十字ボタンの上下の連打で緩急をつけ、変化球は右か左の連打数で変化を調整。打者操作はバッティングポイントという点を動かしコースを読むゴルフゲームのような仕様で、こちらも十字ボタンでアッパー、ダウン、レベル各スイングを打ち分ける……って操作が複雑すぎるよ!


 極めつけは守備の難しさだ。

 打球に追いついても捕球すらままならず、なんとかファーストへ投げても一塁手が送球を落とす。なんだこれは?

 「ボールが来たら、とにかくAボタン連打だよ」

 考えるな、感じるんだ風にK君は言う。嘘をつけ、そんな守備操作があるかよと思ったらガチだった。

 ファミリーコンピュータマガジンNo.16特別付録の『ファミコン野球マル秘テクニックブック』によると、「落下地点にたどり着いたらすかさずAボタンを連打しろ!!」「アウトの表示が出て初めて連打していた指を休めるのだ!!これをくせにしろ」なんてもはや攻略テクニックというより、まるで昭和の部活動の過剰なうさぎ跳びのような根性論が展開されている。





強烈な演出の数々に攻略本も投げやりに!?


 かと思えば、当時の野球ゲームとしては珍しく、投球モーションを開始する前に十字ボタンの上で長打警戒シフト、下で前進守備。さらには極端に左右に寄る“王シフト”も再現可能といったように、守備シフトに異様なこだわりを見せる。

 一方で、リアルベースボールを謳いながら、変化球はありえない曲がり方をして打者の背中を通過。200メートル級の特大ホームランが宙を舞い、三振を獲った投手はホームに向かってダッシュをかます挑発行為を連発する。アウトになるとピ~ッとサイレン音が鳴り響く謎演出が続き、走者のスライディングも海面に突っ込む戦闘機のような角度で飛んでいく。


 前述のファミマガテクニックブックでは、外野手が後ろへ打球を逸らすと「追っても追っても球が捕れないっ!!なかなか追いつかない!!助けてくれ」とあまりの操作性の悪さに読者にSOSを出す始末。

 特集最後のベストオーダー紹介では、中日の「落合は4番失格。三冠はバツ」とか、ロッテを「どう組んでみても勝てそうにない打線」と、もはや書いた編集部も投げやりだ。

 『ファミスタ』のように誰もが簡単に遊べるわけでもなければ、のちの『パワプロ』のような野球のリアルさを再現できているわけでもない。ただ、なにかに果敢に挑戦して、完全にしくじった異質の操作性だけがそこにはあった。


 それでも、子どもの適応力を甘くみてはいけない。どんなクソゲーでも、慣れてくると二人で突っ込みながら1試合楽しく遊べたのである。

 同時期には、阪神の掛布雅之にそっくりな子役タレントが主人公の『カケフくんのジャンプ天国 スピード地獄』も発売されたが、『スーパーリアルベースボール』はやること自体が地獄への第一歩という、人生の厳しさを教えてくれるハードボイルドな野球ゲームだった。

 なお、当時の販促チラシにはこんなコピーが書かれている。

 「問題のゲームついに登場。これは野球ゲーム史に残る問題作だ」


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

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