実に102日ぶりとなる今季2号
いつもより強く右拳を握った。
スタンドから降り注ぐ“幸福のシャワー”を浴びながらタイガースの梅野隆太郎は、ダイヤモンドを1周した。
甲子園で行われた14日のジィアンツ戦。4回2死走者なしでマット・シューメーカーの146キロ直球を仕留めた。打球は逆方向の右翼ポール際へ舞い上がり、切れることなくスタンドイン。
4月3日以来、実に102日ぶりとなる今季2号ソロは1点以上の重みを伴った。
「野球は流れがすごくある中で、ああやって球場の雰囲気がちょっと重くなった感じはあったけど、自分の打席を集中して迎えようというところで。思い切りの良さも出せたし、球場の雰囲気が一変できたっていうのは流れの中で良かった」
直前の無死一塁でメル・ロハス・ジュニアが見逃し三振に倒れ、スタートを切っていた一塁走者の山本泰寛も二盗失敗で好機はしぼんだ。
リードは1点。簡単に3人で終われば流れが相手に傾きかねない状況で、捕手である梅野がそれを一番良く分かっていたのだろう。
ストレートを狙った強振には「打開」の思いが込められていた。
幾多の歓声に応えるという快感
梅野本人にとっても大きな一発だ。
今季は開幕からなかなか打撃が上向かず、今も打率は1割台にとどまる。5月には故障離脱も経験し坂本誠志郎、長坂拳弥の台頭もあって先発マスクは日替わり。
「正直、難しいですよ。3日、4日空くこともありますし“出た時に”という思いが空回りすることもある」と苦しい胸の内を明かしたこともあった。
そんな苦境でも前進する原動力はファンの存在。日々、スタンドで掲げられる自身の名前がプリントされたタオルを目にする度に力をもらっていたといい「結果が出ない時でも応援してくれる人たちがいる。ファンの方がいるから乗り越えられることもある」と存在の大きさを語っていた。
完封勝利に導いた伊藤将司、ロハスと上がったお立ち台。背番号2は360度、スタンドの全景を見渡すように言った。
「甲子園でのホームランが久々だったので。この歓声の中でグラウンド1周回れたことは本当に嬉しく思いますし、やっぱり歓声っていうのは最高だなっていうのを改めて思いました。ありがとうございます」
チームは主砲の大山悠輔がコロナ渦で離脱を余儀なくされ、復帰したばかりのジェフリー・マルテも故障が再発。
得点力不足が懸念される中で下位を担い、勝負強さも備える梅野の復調は打線の中でも“プラスアルファ”になり得る。
しばらく味わっていなかった幾多の歓声に応えるという快感。梅野の逆襲を告げる号砲になりそうだ。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)