白球つれづれ2022~第30回・注目の2年生スラッガー、花巻東・佐々木麟太郎
高校通算74本の本塁打を放つ2年生怪物・佐々木麟太郎選手の夢が散った。
今月23日に行われた夏の甲子園大会、岩手県予選の準決勝で花巻東高は盛岡中央高に2-3で惜敗。この日も4打数2安打と気を吐いたが、盛岡中央の斎藤響介投手から決定打が奪えずに、涙をのんだ。
わずか、2日前には高校生離れした長距離砲で周囲の度肝を抜いている。
水沢高相手に18-1の大勝。4回に回ってきた打席でスローカーブに泳がされながら、右手一本で右翼芝生席に今夏1号。通算74本目のアーチは巨人の岡本和真選手が智弁学園高時代に記録した高校通算73本を抜く一打で、高校記録を持つ清宮幸太郎選手(早稲田実高から日本ハム)の111本にもあと37本と迫っている。2年時としては、その清宮よりも3カ月早いペースだと言う。
「それまでの打席はドライブがかかっていたけれど、打球が上がれば(スタンドに)入っちゃうんだよね」と視察にやってきた西武・渡辺久信GMもけた外れのパワーに改めて高い評価を与えた。この時点では、誰もが甲子園での雄姿を確信していたに違いない。
菊池雄星(現ブルージェイズ)や大谷翔平(現エンゼルス)らを輩出した花巻東高。さらに佐々木朗希(現ロッテ)らの怪物を送り出す岩手勢。麟太郎もまた早くから怪物候補生として名を知られた存在である。
184センチ、114キロの巨体から放たれる打球は規格外れ、またたくうちに本塁打を量産して「全国区」の人気まで手にした。花巻東・佐々木洋監督の愛息と言う話題性と圧倒的なフルスイングはスター性も十分だ。
そんな佐々木にとって、聖地・甲子園はリベンジを誓った場所だった。
注目度ナンバーワン選手として挑んだ今春のセンバツ大会では難敵の市和歌山高に敗戦、自身も4打数無安打2三振に終わり「夏に向けて人一倍強いバッターになって戻ってきたい」と語っている。
直前の昨年12月には、かねてから痛めていた両肩を手術、約3カ月をリハビリに要した。コロナ禍の影響や雪国特有の練習環境の難しさもあったかも知れない。そんな厳しい試練を乗り越えて、ようやく本塁打量産の時期に甲子園行きの夢は突如潰えた。
甲子園行きの夢は潰えるもさらなる進化に期待
今年の高校球界は2年生に逸材が揃っていると評判だ。
佐々木を筆頭に広島・広陵高の真鍋慧、九州国際大付の佐倉侠史朗、大阪桐蔭高の前田悠伍選手を併せて“四天王”と呼ばれている。来年秋のドラフト有力候補生たちである。それでも25日時点で佐々木と真鍋は予選敗退、いかに甲子園の道が険しいかがわかる。
予選大会に敗れると、すぐに新チームに移行する。3年生が去って2年生が中心の新たな組織。すでに新主将には佐々木が有力視されている。練習に取り組む姿勢やリーダーシップがチームメイトからも高く評価されていると言う。
順風満帆の下級生の時代から、故障や県予選敗退などで試練の時を味わった。
こうした苦い思いが怪物をさらに進化させるはずだ。
中学時代にメジャーリーグの本塁打王、バリー・ボンズの動画を見て学んだと言う独特のアッパースイングには、一部のプロ関係者から「プロで厳しいコースを突かれたら苦労するだろう」と言う声も耳にする。
高校通算の本塁打記録を持つ清宮でもプロ5年目の今季にやっとレギュラーの道が開けてきた。この先もまだまだ険しい道のりが待ち受けるだろう。しかし、天性のパワーと真摯に野球に野球と向き合う姿に、スター性まで兼ね備えていれば、プロの各球団が放っておくわけがない。
計算上では、来年の夏までに100本以上の本塁打を記録しているはずだ。
佐々木麟太郎が、再び甲子園のグラウンドに現れ、けた外れの飛距離のアーチをかけた時、怪物はさらなる進化をとげる。
表舞台からは消えるが、この規格外れの2年生の今後を見逃すわけにはいかない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)