第33回:重責担う4番の存在感
順調だったチーム状態が、新型コロナ感染者の続出により一変した。ヤクルトは球団新記録の14カード連続勝ち越しを達成する快進撃を続けてきたが、7月は今季初の6連敗も経験するなど苦しんだ。
何が起こるかわからない長丁場のペナントレース。主力が大量離脱した中、あらためて村上宗隆の存在感が光った。22歳の4番は、前半戦終了時点で打率.312、89打点。本塁打の数は33本とハイペース。欲しいところで1本を放つ頼もしい4番の姿がある。
7月20日の巨人戦(神宮)では、4-2とリードしていた7回一死一・三塁の場面で、途中出場で3番に入っていた並木秀尊がセーフティスクイズを失敗。三塁走者の山崎晃大朗が本塁で憤死し、追加点を阻まれた。
その嫌な流れを断ち切ったのが村上のバットだった。場面は二死一・二塁と変わり、カウント0-1から豪快に弾き返した打球は、ライトスタンドへ吸い込まれる32号3ラン。村上はお立ち台でこう話した。
「セーフティスクイズが決まらず、このままいくと流れ的にすごく厳しい展開になるなという思いがあったので、なんとかカバーしたいなという気持ちで打席に立ちました」
連敗中は終盤に得点を奪われるケースが目立った。7回で2点リードを奪っていたが、残りの2イニングで何が起きても不思議ではない。そんな悪い予感を振り払うかのような完璧な一振りだった。
チーム状態や雰囲気、試合展開を読んで勝つために何をすべきか。村上は若くして中心選手としての重責を担っている。ピンチではマウンドに向かい、投手に積極的に声をかけるのはもはや当たり前となった。
初めて全試合4番でスタメン出場を果たした2020年シーズンは、チームが最下位。そのとき、村上は「自分が成長する中でこれからチームも一緒に勝てるように頑張りたい」と口にしていた。そして昨年はリーグ優勝と日本一を達成し、チームを勝たせる4番に成長した。
「2年前は苦しい試合をずっと続けてきた中で勝つことが当たり前じゃなかったので。今こうやって勝つという喜びをあらためて嬉しく実感できていることが幸せです」。久々のカード勝ち越しを決めた巨人戦で、勝利の喜びに浸った主砲。
苦難を乗り越え、332試合連続で先発4番出場の球団新記録も達成した背番号55は、後半戦も不動の4番として、チームをリーグ連覇へと導く。
「哲人とムネが中心にいる」3・4番の相乗効果
村上とともにチームを引っ張る主将の山田哲人は、7月8日に新型コロナ陽性判定を受けた。離脱中は村上に「気負わずいけよ」と伝えたという。自身がグラウンドに立てない期間は、村上が文字通りチームの先頭に立って盛り上げた。
復帰した前半戦最後の試合で、山田はレフトスタンドへ決勝の16号アーチを架けた。同じくコロナ感染で戦列を離れていた塩見泰隆や中村悠平もスタメンに復帰。野手はほぼベストな陣容が整った。チームは優勝へのマジックナンバー「41」を再点灯させた。
ここまで積み上げてきた貯金「22」は、一軍に定着したばかりの若手やベテラン、外国人も含めチーム全員で勝ち進んできた証しだ。そして、その中心にいるのが3番・山田、4番・村上のコンビといっていい。
山田と村上がお互いをカバーし合い、高め合うことで相乗効果を生んできた。20年にチームの主将を務めた野手最年長の青木宣親は、2人についてこう話す。
「哲人(山田)とムネ(村上)がああやって中心にいる。1人より2人いた方がいいし、3人いた方がいい。当然、哲人とムネだけではダメだし。ただ3番・4番を打つのはそれだけ大変なことだと思いますし、お互いが刺激し合ってこれからも頑張って欲しいなと思います」
経験豊富な青木がキャプテンシーを植えつけ、最下位に沈んでいた2年前のチームは強く生まれ変わった。
誰かがチームを引っ張り、スワローズを強くしていく。昨年、山田が進んでキャプテンの座に就き、村上が4番として大きく成長していった。
後半戦残り52試合。2人の力が爆発すれば、優勝へ向けて一気に加速できる。山田と村上がどっしりとクリーンアップに座る。これこそが、強いスワローズの象徴だ。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)