コラム 2022.08.04. 17:30

“プライスレス”な大谷の未来【大谷の夏、日本人メジャーリーガーの夏】

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エンゼルス・大谷翔平

8月連載:大谷の夏、日本人メジャーリーガーの夏


 今夏のメジャーリーグで最大の話題を呼んだ大谷翔平選手の移籍騒動は、エンゼルス残留で、ひとまず終止符が打たれた。

 日本時間8月3日の午前7時を期限とするシーズン中のトレードに関しては、大谷の去就を巡って全米のスポーツマスコミが過熱、ヤンキースやドジャースなどの名門チームが獲得打診に乗り出すなど「二刀流」大谷に熱視線が注がれた。

 もっとも、この騒動は第1ラウンドの見方がもっぱらで、今オフには移籍報道が再燃するのは必至。グラウンドの内外で「翔タイム」が席巻しそうだ。

 一方では、パイレーツの筒香嘉智選手が戦力外通告を受けるなど、日本人メジャーリーガーへの厳しいジャッジも目につく。大きな夢を抱いてメジャーに挑戦する彼らの明暗も含めた現実を追ってみる。


第1回:大谷の価値が前代未聞の争奪戦を引き起こす


 エンゼルス残留が決まってから2日目。大谷にとっては何ともほろ苦い一日となった。

 あのベーブルース以来104年ぶりとなる2ケタ勝利2ケタ本塁打のかかったアスレチックス戦は6回途中3失点で降板。3度目の挑戦に失敗したばかりか、7試合連続の2ケタ奪三振も果たせず(7奪三振)に7敗目、ファンにとっても消化不良の思いだけが残った。

 現地では「ファイアーセール」と呼ばれる真夏の駆け込みトレード。大谷の放出はなかったが、エンゼルスからは先発要員のノア・シンダーガードと若手成長株のブランドン・マーシュ選手がフィリーズに、守護神のライセル・イグレシアス投手がブレーブスに移籍。中でもシンダーガードはエンゼルスで先発予定の当日にトレードの通告を受けたと言う。どこまでもビジネスライクなメジャー流と言うべきか。

 貴重な先発要員や絶対的なクローザーを放出した裏には「大谷案件」が絡んでいると解説する向きもある。

 エ軍は今回のトレードでイグレシアスの残り3年間の年俸分を含め、3選手合計で約5900万ドル(約78億円、1ドル133円計算、以下同じ)の削減に成功。これは今オフ以降に本格化する大谷残留工作の原資に充てると見られているからだ。


 大谷の今季年俸は約7億3千万円(推定、以下同じ)。破格の安さだが来オフには初のFA権が生まれる。そこでの交渉となればエ軍より高額な条件提示をしてくるチームは当然予想される。

 つまり今オフには残留を望むなら大谷側と本格交渉に入らなければならない。すでに、今キャンプ中にも下交渉が行われたと言う情報もある。真夏のトレードでは有力選手を獲得する場合、マイナーにいる若手有望株の複数選手と交換が一般的だが、オフなら大物同士のトレードも可能。大谷の流失を絶対阻止するのか、条件次第で放出もあり得るのか、チームはすでに重大な決断に迫られている。

 真夏の移籍騒動で最も注目されたのが大谷の価値だ。エ軍のもとには前述のヤンキースやドジャース以外にもブルージェイズ、パドレス、メッツらの強豪チームが獲得の打診を行ったとされる。その評価額は年俸で4500万ドル(約59億8000万円)から5000万ドル(約66億5000万円)と報道されている。現在のメジャー最高年俸はメッツの大エース、マックス・シャーザーの約58億円とされているから、いきなり大谷は世界一になる事も夢ではない。

 だが、大谷の契約には過去にない難しさもある。そもそも、投打の二刀流など100年前のベーブルース以外に成功例はないのだから、どこが上限で、適性なのか判断が出来ない。加えて長期契約を結ぶ場合でも、ずっと投打の二刀流を続けられるのかは誰もわからない。

 逆に大谷サイドから見れば、名前の挙がる強豪チームに移籍した場合、投手として中4日ないし中5日のローテーションを守らなければ他のエース級にもしわ寄せが来る。DHでも他の主力選手との併用もあり得る。つまりエ軍のジョー・マドン前監督のような良き理解者がいないと「リアル二刀流」の輝きは失われることもあり得るのだ。

 エ軍のアート・モレノオーナーは、大谷の放出に反対と言われている。観客動員や球団グッズの売り上げから、大谷が在籍することで得られる巨額なジャパンマネーを考えれば年俸が60億円に跳ね上がっても慰留したい。しかし、この球団はすでにマイク・トラウト、アンソニー・レンドン両主力選手とも巨額の長期契約を結んでいるため、大谷の新年俸と併せると3人で150億円以上の支出が必要。当然そうなればチームの経営状態にも悪影響は避けられない。

 どれが正解で、どこへ落ち着くのか? まさに「プライスレス」な大谷の価値が前代未聞の争奪戦を引き起こそうとしている。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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