潜在能力は高校生トップクラス
8月6日に開幕する『第104回全国高等学校野球選手権大会』。
3日には抽選会が行われて初戦の組み合わせも決定。今年もいよいよ甲子園の夏がやってくる。
高校生のドラフト候補にとっては、この地方大会から甲子園というのが秋のドラフトに向けた最後のアピールの場となる。
ここでは、残念ながら甲子園出場は叶わなかったものの、地方大会で良いアピールを見せた選手たちを紹介していきたい。
今回取り上げたいのが、群馬県で“二刀流”として注目を集める、利根商の内田湘大だ。
▼ 内田湘大(利根商)
・一塁手兼投手
・183センチ/85キロ
・右投右打
<各塁へのベスト到達タイム>
一塁到達:4.25秒
<主な球種と球速帯>
ストレート:142~149キロ
カーブ:115~120キロ
スライダー:124~126キロ
甲子園優勝監督の下で才能が開花
今年は樹徳が30年ぶり3回目となる夏の甲子園への切符を掴んだ群馬県大会。
近年は2強を形成する前橋育英と健大高崎、さらには全国優勝の経験を持つ桐生第一といった強豪校がつば迫り合いを演じてきた。
そんな群馬県において、内田の所属する利根商は全国でも珍しい「組合立」の公立高校で、正式名称は「利根沼田学校組合立利根商業高等学校」。
群馬県の沼田市や利根郡にある町村が共同で「一部事務組合」という行政機関を作り、高校を運営している。
春夏の甲子園出場はないが、2019年4月にかつて桐生第一で夏の甲子園優勝を果たした福田治男監督が就任してから強化が進んだ。
春の県大会ではベスト4に進出(準決勝は部員の新型コロナウィルス感染で出場辞退)。この夏は準決勝で健大高崎に1-8で敗れたものの、2季連続で4強進出と確かな爪痕を残した。
そのチームの中心を担ったのが、主砲の内田だ。
中学時代は群馬西毛ボーイズで投手としてプレーし、当時はそこまで注目されるような選手ではなかったというが、高校進学後に投手と野手の両面で才能が大きく開花した。
新チームでは主に一塁手として出場しながら、リリーフ投手も務め、チームの躍進に大きく貢献した。
フォロースルーの大きいスイング
実際にプレーを見たのは、高校生活最後の公式戦となった夏の準決勝・健大高崎戦だった。
この試合で、内田は「4番・一塁」として先発出場。健大高崎バッテリーからの厳しいマークにあった。
第1打席と第4打席で、自打球が顔面を直撃。いずれも大事には至らなかったが、相手バッテリーには、最悪死球になってもいいから厳しく内角を攻めようという意識が強く感じられた。
厳しく攻められたせいだろうか、残念ながら内田は4打数1安打(第2打席のライト前ヒット)という物足りない結果に終わっている。
しかしながら、内田に高い将来性を感じたのは確かだ。
特筆すべきは、フォロースルーの大きなスイング。身長183センチ・体重85キロという数字を見ても分かるように、高校生とは思えない堂々とした体格で、決して上半身や腕力だけに頼ることなく、全身を使ってバットを振ることができる。
また、パワーだけでなく柔らかさも備えている。厳しい内角攻めを想定し、少しホームベースから離れて立つなど、考えて打席に立っていることもうかがわせた。
「大型の一塁手」といえば、打撃に特化しているように思われるかもしれないが、内田は守備と走塁でも高い能力を持っている。
この日も相手の送りバントが小フライとなった打球をダイビングキャッチ。出足の鋭さ、球際の強さともに素晴らしいプレーだった。
担当スカウトに聞いたところ、内田は中学時代から基本的に投手であり、高校でもその負担を考えて一塁を守っているだけ。他のポジションを守れないのではなく、“守っていない”だけなのではないか、とのことだった。
投げては最速149キロ
そして、さらに驚かされたのがピッチングである。
6点リードされた7回途中からマウンドに上がると、立ち上がりから145キロを超えるストレートを連発。最速は149キロにまで達した。
9回に1点は失うも、健大高崎の強力打線がそのスピードに完全に差し込まれていた。
スタンドでは、内田の登板に合わせて球筋の見やすい席に移動したスカウトがいたほど。投手として高く評価している球団もあるという。
打者としても投手としても粗削りとはいえ、どちらも潜在能力の高さは、高校生のドラフト候補の中でトップクラスのものを持っている。
惜しくも甲子園出場は果たせなったが、この夏のプレーはスカウト陣への強烈なアピールとなったに違いない。
果たして、この逸材をどの球団がどのように評価するのか……。今年のドラフトの大きな注目ポイントの一つとなるだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所