白球つれづれ2022~第32回・坂本の離脱でクローズアップされた遊撃手の過酷な現状
巨人の坂本勇人選手が、今月6日に行われたイースタンリーグのヤクルト戦に「1番・DH」で実戦復帰した。
持病の腰痛(正式診断名は仙腸関節炎)で1軍から姿を消したのが7月7日だから、約1カ月ぶりの本格的な実戦だった。
もっとも、本人は「打つ方は大丈夫」としながらも、「守備に就けないとダメ。まだ確認しなければならないことがたくさんある」と、1軍復帰には慎重だ。
今季は開幕直前に左脇腹を損傷、5月には右膝靱帯損傷と故障が相次ぎ、計3度の戦線離脱。今度、再発でもすれば選手生命にも重大な影響を及ぼしかねない。
その思いは、首脳陣も同様だから念には念を入れた復帰を模索することになる。
「ミスター巨人」と言っていい坂本の相次ぐ故障は、色々な部分でチームに暗い影を落とすことになった。攻守にわたるキーマンで、精神的支柱でもある主将の離脱は下位低迷の大きな原因となっている。
5月の抹消時には20勝9敗と快調に首位を走っていたチームは、坂本がいなくなると、復帰までの34試合で14勝20敗と急降下。その後もズルズルと下位に沈んでいった。
さらに重大なのは今季だけに収まりそうにないことだ。いわゆるショートからのコンバート問題である。
野手の中で最も過酷なポジションが遊撃手。守備の要とされる二遊間は守備範囲も広く、複雑なサインプレーも要求される。とりわけ、ショートは二塁手に比べて一塁との距離が長いため、一瞬のファンブルも命取りになりかねない。
プロ2年目の19歳からレギュラーの座を勝ち取り、今年が15年目。打者としても主軸を任されてきた坂本の勤続疲労はここ数年、故障の多さに表れていた。
多くの球団が遊撃手の適任探しに悪戦苦闘
過去の例を見ても宮本慎也(ヤクルト)鳥谷敬(ロッテ)らの名ショートが現役の晩年は三塁にコンバートされている。巨人のサードには不動の4番・岡本和真選手がいるため、すんなり「サード・坂本」と行くかは不透明だが、今季の練習時には岡本が一塁を守ったこともある。いずれにせよ、チームの骨格を揺るがす大きな問題だけに、今オフの決断が待たれる。
坂本の戦線離脱によって、クローズアップされた遊撃手の過酷な現状は他球団でも例外ではない。多くの球団が守備の要に悪戦苦闘している。
8日現在(以下同じ)規定打席に到達している遊撃手はセリーグで中野拓夢(阪神)小園海斗(広島)長岡秀樹(ヤクルト)。パリーグでは小深田大翔(楽天)今宮健太(ソフトバンク)紅林弘太郎(オリックス)の計6選手。つまり半数のチームは、やりくりに苦心している。ちなみに昨年行われた東京五輪の侍ジャパンの遊撃手は坂本と西武の源田壮亮選手。その源田も5月に自打球を右足に当て、骨挫傷で1カ月近く戦列を離れている。
監督交代や若返り策の中で適任者を見つけられていないチームもある。中日は不動のレギュラーと見られていた京田陽太選手が極度の打撃不振と自慢の守備にも安定性を欠き、打線の迫力不足に一層の拍車をかけている。BIG BOSS新庄日本ハムではルーキーの上川畑大悟選手が気を吐いていたが、コロナ禍もあり、現在は中島卓也選手の起用が目につく。ロッテは不振の続く藤岡裕大選手に代わってアデイニー・エチェバリア選手が堅守を見せるが、打撃は迫力不足。下位に低迷するチームに不動のショートがいないのは単なる偶然とは思えない。
一昔前の遊撃手は「専守防衛」と言われて、守りさえできれば多少の打力不足も目をつぶってもらえた。だが、現代の理想像は「打って、守って、走れる」三拍子揃った選手が求められる。その代表格が坂本だっただけに、その後継者探しは大変だ。
夏の高校野球甲子園大会は真っ盛り。各球団スカウトは未来の坂本勇人を探すために今年も目を光らせているに違いない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)