白球つれづれ2022~第33回・走攻守で存在感を示す“新たな周東佑京”
混戦パリーグの行方が見えない。
15日現在(以下同じ)、首位の西武と2位のソフトバンクは1.5ゲーム差。3位のオリックスと2.5差ならBクラスに沈む楽天でも4差だから、残り30~40試合でどんなドラマが待ち受けているのだろう。
史上稀に見る“混パ”を演出している要因はいくつも挙げることが出来る。
まずは、コロナ禍でどのチームにも戦列離脱者が出ていること。特に勝負所の直近で主力に陽性者が出ればチーム構想は完全に狂う。
次に故障者の多さ。柳田悠岐(ソフトバンク)や吉田正尚(オリックス)らリーグを代表する強打者が春先に出遅れたり、本調子に届かないため打線の破壊力不足に陥った。外国人選手の不振も例年以上に目立っている。
投手陣では、この時期になると夏バテ現象が顕著になるが、鉄壁の守りを誇ってきた西武でも増田達至、平良海馬、水上由伸投手らの抑え陣に不安が露呈し始めた。こうした「勝利の方程式」が微妙に崩れたことで、どのチームにも抜け出すだけの決め手がない。
球宴後の戦いを振り返ると、西武が9勝5敗1分けに対して、オリックスが9勝7敗、ソフトバンクが7勝7敗1分け。5連勝以上の大型連勝はどのチームもなく、3連敗以上も上位4強にはない。このペースで行くと優勝の行方は最後の10試合近くになっても見えて来ないだろう。
よく言えば、ハラハラドキドキのデッドヒート。厳しく言えば、決め手のない膠着状態。そんな中で均衡状態を打破するのは、突如現れる「ラッキーボーイ」の存在だ。先週のパ・リーグで言うならソフトバンクの周東佑京選手がそれに充たる。
特に13日のオリックス戦の働きは際立っていた。
同点の9回に劇的なサヨナラ本塁打も見事だが、それだけではない。初回に快足を飛ばして二盗を決めて先制点に貢献、さらに守っても2回2死満塁のピンチに中川圭太選手のセンター大飛球を背走しながらキャッチするビッグプレーでチームの危機を救っている。「打って良し、走って良し、守って良し」の“周東劇場”でファンを魅了した。
周東の復活が“混パ”から抜け出す起爆剤に
一昨年の盗塁王。育成出身の“韋駄天男”も昨年は故障と打撃不振で出番は激減。巻き返しを誓った今季も結果が残せずに二塁、三塁に外野と便利屋的な使われ方が続いた。
しかし、8月に入って先発出場が増えると7日から13日まで6試合連続安打で打率は3割台まで上昇、何より昨年まで通算5本塁打の男が今季だけで5本。しかもそのうち2本がサヨナラ弾だから価値も高い。
走塁のスペシャリストから、不動のレギュラーへ。脚だけに頼らず打撃改造に取り組んできた。スイングスピードを上げるために筋トレに時間を割くようになった。その成果がパワフルな打撃に結びついている。目指すは走攻守三拍子揃ったヤクルトの塩見泰隆選手の様な存在か。
周東が塁上に出れば、相手バッテリーは俊足に神経をすり減らす。そんな“包囲網”をくぐって盗塁を決めれば、チームの得点能力が飛躍的に上がる。瞬時にして、ゲームの勝敗を変えられるのが何よりの強みだ。
残り試合を短期決戦と見立てた時に、必要となって来るのが「ラッキーボーイ」の出現だ。柳田のような主砲は打って当たり前、その前後をかためる脇役からヒーローが出ると、チームに勢いが生まれ“混パ”から抜け出す起爆剤にもなり得る。
大黒柱の千賀滉大を欠き、新たなエース候補と見られた大関友久投手は病気で長期離脱。打線の核となってきたユリスベル・グラシアル選手もいない。誤算だらけのシーズンを最後に抜け出すなら、周囲も驚くヒーローの誕生が必要不可欠となる。
小型エンジンを中型エンジンに積み替えた“韋駄天男”の進化。スピードに加えて、パワフルな打撃とドラマチックな展開も作り出せる。
「一番・中堅」の定位置を完全に確保した時、周東が優勝争いの主役に躍り出ても不思議ではない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)