「素直に嬉しいです」
キャリアの“節目”に発した言葉には、彼の人間性と人柄がにじんだ。
タイガースの9年目左腕・岩貞祐太が8月27日に国内フリーエージェント権を取得。球団を通じて発したコメントには、周囲への感謝が散りばめられていた。
「素直に嬉しいです。シーズン中なので、今はまだ目の前の試合に集中するだけですし、何も考えていません。これまでの和田監督、金本監督、矢野監督に使っていただいて、チームメートや裏方のみなさんに支えていただいたからこそ取得できた権利だと思うので、みなさんに感謝しています」
自身でつかみ取った大切な権利の裏には周囲の支え、起用する首脳陣や切磋琢磨してきた仲間の存在があることを強調していた。
ポジションの変遷を経て、腕を振ってきた。
即戦力左腕として、2013年のドラフト1位で横浜商大から入団。和田豊監督のもと、1年目から先発として一軍のマウンドに上がったものの、最初の2年間は計2勝に終わった。
転機となったのは、金本知憲監督が就任した2016年。春季キャンプで指揮官の目に留まり、開幕ローテーション入りを果たすと、自己最多の10勝を挙げてブレイクした。
その後も先発として貢献してきたが、若手の台頭や不振も重なって、昨年からは中継ぎに転向。2年目の今季は5日現在で自己最多にあと1と迫る45試合に登板し、防御率は1.50。ビハインドの展開やワンポイントなど幅広い起用法に応えている。
「ブルペンにはサダさんがいる」
何より大きいのは、数字に現れない“リーダーシップ”でのチームへの貢献だ。
今季、ブルペンでは湯浅京己や浜地真澄といった一軍経験の少なかった若手が「勝利の方程式」を担うまでになった。
そんな2人が「ブルペンにはサダさんがいる。いろいろ聞いて、教えてもらっている」と声を揃えて頼りにするのが先輩左腕。調整法やメンタル面の助言、他球団の打者の特徴など、共有できる情報を授け、飛躍をアシストしてきた。
岩貞自身も、今季の登板後には必ずと言っていいほど「みんながつないでくれたので」とリリーフ陣の結束の強さを表すようなコメントを口にする。
連日、ホールドやセーブを記録する立場でなくとも、年齢も性格も違う面々の“つなぎ役”という大きな任務も担う。
今季はオフに精力的に取り組んだウエートトレーニングの効果もあって、直球が154キロを計測。自己最速を更新した。5日に31歳になったが、プレーヤーとしての進化もしっかりと見せつけている。
リーグトップの防御率を誇る投手陣で、渋い輝きを放つ背番号17。奇しくも初のFA権を手にした1年で、その存在感がぐっと増している。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)