日本独立リーグ考~第1回:ルートインBCリーグ
9月を迎え、プロ野球(NPB)のペナントレースは佳境を迎えているが、「マイナーリーグ」である独立リーグは、すでにポストシーズンに入っている。
2005年に四国アイランドリーグ(現・四国アイランドリーグplus)がスタートして早17年。日本の独立リーグは、北海道から九州まで7リーグに拡大している。
誕生以来、毎年NPBに選手を送り出し、「育成リーグ」としての地位を確立した一方、観客動員は年々右肩下がりで、その「持続可能性」には疑問符が付くようにもなっている。
昨年から今年にかけては、老舗のルートインBCリーグと新興の北海道ベースボールリーグで「分裂騒動」が起こり、「沖縄初のプロ球団」である琉球ブルーオーシャンズが「日本独立リーグ野球機構」から除名されるなど、拡大傾向にあった独立野球界に再編の波が押し寄せていることを感じさせた。
日本野球に根付いた「独立リーグ」はこの先どうなっていくのだろう。各リーグの現状とその課題を追っていく。
まずはファンに足を運んでもらう
8月14日、BCリーグ公式戦が行われた栃木県営球場は5021人の「大入り」となった。
2007年に「プロ野球不毛の地」である長野・新潟・石川・富山に本拠を置く4球団により、日本第2の独立リーグ(発足当初は北信越ベースボールチャレンジリーグ)としてスタートしたこのリーグ。
発足当初は物珍しさもあり、1試合平均1700人を超える観客動員を誇ったものの、その後この数字は下がり続け、ここ数年は500人前後まで落ちている。
今シーズンも1000人を超える動員を行った試合はほとんどなく、普段は500人を超える試合すら珍しいくらいで、ときには数十人しかいないほぼ無人のスタンドで興行試合が実施されることもあった。その中にあって、5000人を超える動員は異例と言っていい。
この動員を呼んだのは、ホームチーム・栃木ゴールデンブレーブスの先発マウンドに立った29歳のルーキー・高岸宏之。この日のスタンドを埋めたファンの大半にとっては、タレント「ティモンディ・高岸」といった方がよかった。
今や大河ドラマにも出演するお笑いの枠を越えた人気タレントは、それまでも強豪高校野球部出身という球歴を生かして、しばしばプロ野球(NPB)の始球式のマウンドに立ち、140キロを超える速球でスタンドのファンを沸かせていた。
そんな中、栃木球団からの打診に応じてトライアウトを受験。NPBでも名を馳せ、2008年・北京五輪の日本代表チームのメンバーにもなったコーチ兼任投手・成瀬善久からも「お墨付き」を得て「プロ入り」した。
独立リーグとは言え、あくまで「プロ」。シーズン中はチームに帯同するのが原則だが、BCリーグは昨年より選手のシーズン中の「兼業」を容認する方針に転じたこともあり、高岸にはタレント業との「二刀流」が認められた。というより、球団はタレントである高岸がマウンドに立つことに価値を見出し、彼を獲得したと言っていいだろう。
人気タレントの動員力は絶大で、初登板に続くリリーフ登板となった8月20日の黒磯市での試合でも1332人。球団が拠点を置く小山市での9月3日の試合では、3212人の観客が球場に足を運んだ。結局、高岸はこの3試合で11個のアウトを取り、防御率4.91の成績を残して今シーズンを終えた。
球団は、彼の獲得に関して「戦力補強」を強調するが、独立リーグが掲げる「NPBへの再チャレンジ」という理念に、30歳を前にし、すでにタレントとしての地位を確立している彼が当てはまるとも思えない。やはりチーム、リーグの露出を高める効果、観客動員を狙っての獲得というのが現実だろう。
もともとBCリーグは、他リーグに比してエンターテインメント性を希求する傾向は強かった。
過去には、フリオ・フランコやタフィ・ローズといったメジャーリーグやNPBで功成り名遂げた往年のスター選手を「現役復帰」させたり、元メジャーリーガーも複数獲得している。
その中でも、とくに栃木球団はリーグ参入の2017年に「日本初の女性独立リーガー」、吉田えりを同リーグの石川ミリオンスターズから獲得。その翌年には巨人を自由契約となった侍ジャパン戦士の村田修一を入団させるなど、ネームバリューのある選手の招聘に熱心だった。
さらに2020年には、MLBでもプレーした川崎宗則の獲得に成功。前年に入団した西岡剛(現・ヤマエ久野九州アジアリーグ北九州監督兼任選手)との元メジャーリーガーによる「侍ジャパン二遊間コンビ」を独立リーグという場で復活させている。
「客寄せ」が行き過ぎると…?
このような話題性重視ともとれる選手獲得策は、育成リーグとしての独立リーグの性格とは相容れないようにも思えるが、無名の選手だけでは、「プロリーグ」としてファンを球場に呼び込むことは難しい。
とくに社会人野球や大学野球などが充実している日本においては、独立リーグのプレーレベルはアマチュアトップレベルのそれには及ばないという現実がある。
そう考えると、栃木球団やBCリーグの方向性は、プロリーグとしての独立リーグのあり方としてある程度納得のいくものであるとも言える。
このような方向性は、「本場」アメリカの独立リーグにおいても、一時期見られた。
北米での独立リーグの歴史は1990年代半ばに遡ることができるが、その後ブームが押し寄せ、各地に大小の独立リーグが林立することとなった。
その中で淘汰が進み、やがてアトランティック、アメリカンアソシエーション、フロンティア、カンナム(カナディアン・アメリカン・アソシエーション)の「4大リーグ」(うち前者3リーグは現在MLBと提携する「パートナーシップ・リーグ」となっている)と、その他の「アペンディクス(付録)・リーグ」と呼ばれる泡沫リーグに分化されるが、規模が小さく、観客動員に苦戦する後者においては、かつてのスター選手を「現役復帰」させることがまま見られた。
1980年代終わりから1990年代初めのオークランド・アスレチックスの黄金時代を、マーク・マグワイアとのコンビ「バッシュ・ブラザーズ」の一員として支えたホセ・カンセコは、2001年のシカゴ・ホワイトソックスでのプレーを最後にメジャーの舞台から去ったが、その後アペンディクスリーグを転々とし、53歳になった2018年まで“現役”でプレーした。
彼が2015年から3シーズンプレーしたのは、彼が一時代を築いたオークランド周辺のベイエリアを拠点とするパシフィック・アソシエーションというリーグだった。
このリーグのある球団は、2010年代の初め、シーズン終盤に60代後半になる元メジャーリーガーの老人を担ぎ出してマウンドと打席に立たせ、投打にわたる「プロ野球最高齢記録」を樹立させている。
この老人、ビル・リーは、2018年にカンナムリーグに招かれて3打席に立ち、「最高齢記録」を71歳までのばしている。
これらが「客寄せ」以外の何ものでもないことは明白で、ここまでしてしまうと、独立リーグの「プロリーグ性」さえ危うくしてしまう。結局、パシフィック・アソシエーションとカンナムリーグはともに消滅してしまっている。
私は今シーズン、「タレント」のいないBCリーグを取材した。初夏を迎えようかという好天の下での週末の試合にもかかわらず、スタンドには400人ほどの観客がいるだけだった。
内野ベンチ上のフェンスにあった地元企業の横断幕は、現在の独立リーグビジネスが来場者からのチケット収入より、スポンサー収入に頼っていることを如実に物語っていた。
16年目を迎えたBCリーグは、南北両地区のプレーオフをすでに終了。17日から北地区チャンピオン、信濃グランセローズと南地区チャンピオン、茨城アストロプラネッツの間でリーグ優勝をかけたチャンピオンシップシリーズが始まる。
文=阿佐智(あさ・さとし)