球団史にその名を刻むヒットメーカー
中日の安打製造機・大島洋平が、9月21日のヤクルト戦で2安打をマーク。
ヤクルト先発・石川雅規から3回にレフトへの適時打を放つと、6回には詰まりながらセンター前へ。これで通算安打数は1877本となり、木俣達彦を抜いて球団単独5位に浮上している。
球団では、現監督である立浪和義の2480安打がトップ。次いで故・高木守道が2274安打、谷沢健一が2062安打、そして現・内野守備走塁コーチの荒木雅博が2045安打で続く。
また、中安を放ったこの日の第3打席で11年連続となる規定打席到達。こちらも最長は立浪監督の16年で、それに次ぐのが13年の木俣。背番号8が辿り着いた「11年」は、江藤慎一と荒木に並ぶ記録となる。
しかし、大島のコメントは淡々としたもの。
「1試合1試合ベストを尽くします」
あくまでも通過点として先を見据えた。
苦しめられた今年4月のアクシデント
過去に肋骨や足の指、体の節々にヒビが入ったり、剥離骨折をしていても試合に出続けた。
そんな頑丈な肉体とハートの持ち主でも「ちょっと、どうなるか分かりません。自分が思うように動かないんだもん」と語ったのが、4月下旬に阪神・西勇輝から右膝付近に受けた死球だった。
神経が痛み、力を入れようにも入らない。脳の指令と体の動きがマッチしなかった。
「結果的に、脳は自然と『神経が切れた』と判断したんだと思います。時間が経つのを待つしかなかったですね」
最もひどかったのは、ランニングをしていて右足のつま先が地面に引っ掛かる。
上を向いているはずが、「力を入れても膝から下は“ぶらーん”ですもん。困りました」と振り返った。
逆転首位打者も見えてきた
そんな危機から復帰を果たし、状態を上げて、今では首位打者争いにも食い込むことができているのは、名球会入りを目指す“意地”があるから。
残り10試合を切った中、22日の試合を終えてヤクルト・村上宗隆とは「8厘」の差。チャンスがあるから、最終コーナーでまくりたい。
大島に記録を抜かれた木俣さんも、首位打者を望んでいる一人。
78歳のレジェンドは「優勝を狙う村上は敬遠もされて固め打ちできない。大島は勝負してもらえるからあり得るよ」と後輩のプレーを見守っている。
思い出は、大島が入団した2012年。春季沖縄キャンプでスイングを見た。駒大から日本生命を経て、ドラフト5位で入団した細身の選手を見て「これは打つ」と感じたという。
「大島は覚えてないと思うんだけど、『レギュラー取れるから頑張れよ』と声を掛けたんだ。彼はきょとん、としていたよ。長打はないけど、空振りが少ない。自分のスタイルを見つけて、貫いたからここまでヒットを積み重ねられたと思う」と話した。
大島が首位打者を獲得すればキャリア初。2019年から2年連続で最多安打のタイトルは手にした。“最も打つ男”の称号はすでに得た。
次は、“最も高い確率でヒットゾーンへ飛ばすバットマン”の肩書を手にしたい。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)