第4回:明暗が分かれた若き4番の両雄
村上に栄光のゴールが近づいてきた。
21日現在(以下同じ)優勝マジックを4とするチームは、22日から本拠地・神宮球場で4連戦。よほどのことがない限り、高津臣吾監督の地元胴上げが実現するだろう。
「神」に昇華した村上宗隆選手の三冠ロードも、大詰め。本塁打と打点は当確で、残すは打率部門だけだ。
相手チームのマークは厳しさを増して、9月の月間打率は.264と下降カーブにある。目下、打率2位の大島洋平選手(中日)の同月間打率は3割を超しているため予断は許さないが、ここまで来ればミラクルイヤーを三冠で締めくくりたい。
セ・リーグのペナントレースは、目下クライマックスシリーズ(以下CS)への進出を賭けた3位争いが熱い。巨人、広島、阪神が僅差で残る1枠を争っているが、ここへ来て巨人の勢いが目につく。
中でも好調な打線は丸佳浩、中田翔、岡本和真各選手で組むクリーンアップの一発攻勢が凄い。さらにグレゴリー・ポランコとアダム・ウォーカーも加えた“20発クインテット”は、もしCSに進出すれば相当な脅威となりそうだ。
一時は5位まで沈んだ巨人にあって、最も悩み苦しんだ一人が岡本である。
度重なる打撃不振で4番の座を中田に明け渡したのは8月11日のこと。昨年まで激しく打撃タイトルを争っていたライバルの村上は、この月に打率.440、12本塁打、25打点と驚異的な数字を残して、はるか遠くへ行ってしまった。
岡本はシーズンを最高の形で滑り出した。4月末までに10ホーマー、25打点で3、4月の月間MVPを受賞。3年連続の本塁打、打点の二冠へ向けて視界は良好だった。
ところが、今年に限っては大きなスランプが2度、3度とやって来る。
プロの世界では、多くの選手が前年よりさらに飛躍を期して改良に取り組む。岡本の場合も例外ではなかった。打席でのスタンスをクローズドからスクエアに変えたり、脚の上げ幅を高くしたり、ノーステップにしたり、と試行錯誤を繰り返す中で、わずかなズレが傷口を広げていったのだろう。
5月の月間打率は1割台とどん底。6月に持ち直したと思ったら、再び7、8月は打率が共に2割2分台まで落ち込み、特に7月は1本塁打、3打点と自慢のパワーまで影を潜めていった。ちなみにこの両月で村上は20本塁打、42打点と爆発している。何が、両雄の差を生んだのだろうか?
村上にあって岡本にないものとは?
同じ、高卒のドラフト1位で4番・サードを任される二人はこれまでも何かと比較対照されてきた。4歳年上の岡本が昨年まで2年連続で本塁打、打点の二冠に輝いたのに対して、村上は昨年初めて打点部門で肩を並べている。
しかし、今年に入って岡本を取り巻く環境は激変した。最も大きかったのは坂本勇人選手の相次ぐ離脱とチームの低迷である。
巨人はここ数年、坂本と菅野智之投手がチームリーダーとして牽引してきた。4番に座る若き主砲・岡本でもチームの三男坊くらいの存在。だが、今年になると坂本、菅野共に故障や不調で主戦力から外れる回数が増えていった。本来であれば、そこに岡本が座らなければならないのだが、逆に自身の不振も手伝ってプレッシャーばかりが増して行ったのだろう。
加えて7月下旬にはチーム全体にコロナ禍が直撃。岡本も戦列を離れる時があった。そこへ、目の前でライバルの村上が豪打を見せつける。個人的にも焦りや屈辱感があってもおかしくはない。
ヤクルトでも村上の上には青木宣親、山田哲人と言った野手のチームリーダーがいる。しかし、ゲームに入ると年齢や序列など関係なく、不動の4番としてチームを引っ張る22歳の姿がある。
名門球団の4番の重みは違うと言う指摘もある。数字を残せば、より本物のリーダーに近づくことも事実だろうが、村上の持って生まれたリーダーシップもまた特筆すべきだろう。
9月に入って、岡本のバットに輝きが戻ってきた。5年連続30本塁打以上の快記録も視野に入る。こうして見て来ると二冠部門に関して、岡本の数字が極端に悪いわけではない。それでいて、村上との差はとてつもなく離れているのも事実だ。
来季以降も2人のタイトル争いは続いていく。「神様」への挑戦。岡本のハードルは一段と高くなった。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)