コラム 2022.09.30. 07:08

投手は300キロの豪速球を記録、打者は消える打球を放つ超人…『ウルトラベースボール』の世界

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球速297キロ…!?

野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第13回:ウルトラベースボール


 プロ野球界もペナントレースが終わりに近付き、連日のように引退試合や別れのセレモニーが行われている。

 なぜ人はベテラン選手の現役引退に涙するかというと、そこには自分だけのメモリーやストーリーがあるからだ。




 「仕事でクタクタになって帰宅して、缶チューハイ片手にテレビをつけたら、偶然スポーツニュースで福留のホームランを見て元気が出た」的な思い出貯金とマイストーリー。

 そのプレーの背後には、ファンそれぞれの“あの頃の自分”もいる。好きなプロ野球選手の引退は、それを追い続けた過去の自分との別れでもある。

 だから、懐かしの15年前のホームラン映像を見たら、一瞬で当時の記憶を思い出せる。令和の今、レトロ野球ゲームを遊ぶ行為もそれに近い。

 「このカセット、親戚のおっちゃんがパチンコで勝って、駅前のファミコンショップで買ってもらったんだったな」なんて思い出補正付きのプレイボールだ。


 1989年10月27日、小学校の教室は前日の日本シリーズ第5戦で巨人の原辰徳が放った満塁ホームランの話題で持ち切りだったが、放課後にはその日発売した一本の野球ゲームをクラスメートの家で遊んだのをよく覚えている。カルチャーブレーンから出た『超人ウルトラベースボール』である。

 同日には同名映画のゲーム版『メジャーリーグ』、人気シリーズの『ドラゴンボール3 悟空伝』や『田代まさしのプリンセスがいっぱい』といった話題作もリリースされたが、「ファミコン野球に超人軍団出現!!」というプロレス的な煽りは野球好きの少年たちに刺さった。


まさに“超人野球”


 今思えば、球団や選手は実在チームをモデルにした偽名で、ゲームの基本部分も当時量産されたファミスタの亜流タイプだったが、本シリーズの生命線はそこではなく泣く子も黙る「ウルトラプレー」である。

 投手はスネークボール(蛇行して飛ぶ)、ストップボール(投球後Aボタンで球を止められる)、消える魔球(打つ前に球が消える)、ファイヤーボール(加速しながら球が燃える)、忍者ボール(ボールが大量に分裂する)といった魔球が投げられ、打者は爆発打法(着地した瞬間に球が爆発)、流星打法(折れたバットの破片が打球を覆い触れた野手をKO)、ミサイル打法(捕球した野手ごと吹き飛ばす)等のえげつないウルトラ打法を装備。守備側はロケットジャンプやハイパースローのウルトラ守備でそれに対抗する。





 冷静に文字にするともうメチャクチャ。まさに超人野球。だが、このメチャクチャさが当時のキッズたちにはウケた。

 魔球やウルトラ打法はウルトラポイントが3ずつ(ウルトラ守備は5ポイント)消費されていくので、序盤から連発していたら終盤の勝負どころで使えない。だって、オラは人間だから……(byジェロニモ)。なんつってそれらの駆け引き込みで、対戦プレーは白熱した。

 野球という共通言語をベースにした分かりやすさとクレイジーさは国境を越え、アメリカでは90年度のベストスポーツゲームオブザイヤーも受賞。しかし、ファミコンのハード性能では、ウルトラプレーの表現に限界があったのも事実だ。


記録より記憶に残る怪作


 満を持して91年7月12日、新ハードのスーパーファミコンで『スーパーウルトラベースボール』が世に出る。

 グラフィックが飛躍的に向上して拡大縮小機能も連発され、魔球や秘打の種類や演出も劇的にバージョンアップ。箱裏面には誇らしげに「大迫力!これぞ驚異のウルトラプレーだ!!」という見出しで、こんな文章が記載されている。

 「何とピッチャーが分身しちゃう!? これが噂のウルトラプレーだ!! 300キロを超えるストレート! 地震が起きちゃう打法! 頭上はるかを飛んでいくフライをジャンプキャッチ! などなどSFCの機能をフルに使用した39種の大迫力プレーが君を直撃だー!」





 ウリは39の必殺技。本作ではウルトラパネルの表示・非表示や、ウルトラポイントの無制限化も選択可能となり、チームエディットで魔球やウルトラ打法もアレンジできた。

 バットをへし折る「スーパーソニックファーストボール(SSFB)」が強すぎ論争や、CPU守備ガバガバ問題といった欠点もあったが、スーファミで進化した必殺技の数々は難しい操作もいらずシンプルに楽しめた。


 92年8月には『ウルトラベースボール実名版』、94年7月には『スーパーウルトラベースボール2』が発売。同タイトルの実名版は3まで続くヒットシリーズとなる(後年、ニンテンドー3DSでもリメイクされた)。

 だが、ウルトラリーグのウルトラプレーという荒唐無稽さがウリな作品なだけに、セ・パの12球団や選手を実名化したところであまり需要はなかった。

 やがて野球ゲーム市場は『パワプロ』の影響や次世代ハードの登場に向け、投手の球種や打球弾道の再現、さらには選手のビジュアルの作り込みといったリアリティを追求する流れが主流となっていく。


 そんな時代の流れに抗うように94年12月22日発売の『ウルトラベースボール実名版2』では、プレイサイズ設定でノーマル型とリアル型が選択可能。

 リアル型では全員筋骨隆々の選手たちがピッチャー分身投法や豪鉄球を投げ、超人たちは歯を食いしばり大車輪打法(打った瞬間に画面が回転)で弾き返すという、世紀末の危険な遊戯『マッドマックス』野球版のような雰囲気が体験できる。


 記録より記憶に残る怪作。今後、最新ハードでほぼ実写に近い球場やプレーを再現した野球ゲームが発売されるだろうが、数十年前にその逆のベクトルに向かって爆走した『ウルトラベースボール』シリーズを忘れないでいたい。

 だって、オラは人間だから……。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)



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