最終回:スランプを乗り越え自己との戦いに勝利できるか
ヤクルトのセ・リーグ連覇から4日ほどたつ。
セのペナントレースも一区切りとあって、球界は「人事の秋」に突入した。
阪神ではシーズン前から今季限りの退団を明らかにしていた矢野燿大監督の後任に岡田彰布氏(元監督)内定の報道が相次ぎ、ヤクルトでは内川聖一選手、嶋基宏捕手兼コーチ補佐の今季限りの現役引退発表。ソフトバンクでは松田宣浩選手の退団会見が行われている。こちらは現役続行の希望が強く、今後は新天地を探していくようだ。
去る人がいれば、来る人もいる。今月28日には全国高校野球連盟(高野連)のホームページに村上慶太選手(九州学院)がプロ志望届を提出したことが掲載されている。
慶太選手と言えば、“村神様”の実弟。同じ九州学院の4番として今夏の甲子園のグラウンドに立ってチームのベスト8に貢献している。
「僕の弟と言うことで騒がれるだろうが、どうかそっとしておいて欲しい」と兄である宗隆は当時、語ったが10月20日に開催されるドラフト会議では再び注目を浴びるのは確実。
風貌もそっくりなら、190センチ、94キロの巨体は兄の高校時代を上回る。
「体格的にも可能性を感じるし、将来性のある選手」とヤクルトの小川淳司GMも高い評価をしているので、ひょっとしたらスワローズで「村上兄弟」が誕生するかも知れない。
今季残り4試合で復活が成るか?
本題に戻ろう。“村神様”のバットから快音が消えて久しい。
28日時点(以下同じ)で13日の巨人戦から11試合48打席ノーアーチと今季ワーストの不振にあえいでいる。本塁打はあと1本打てば、王貞治(元巨人)を抜いて日本人最多。三冠部門では首位打者争いで大島洋平選手(中日)と厘差のデッドヒートが続いている。一発だけを狙いに行くわけにもいかない。と言って、安打に集中ともなれない。
残りは29日の広島戦から10月3日のDeNA戦まで4試合。孤高の挑戦は最後まで続く。
三振、また三振。あれほどいともたやすく量産していた本塁打が打てない。
「打席の中で、打ちたい気持ちだけが強くなりすぎて、体の軸が崩れている」と過去に3度の三冠王に耀いた落合博満氏も指摘する打撃の崩れが原因であることは明白だ。
村上と言えば、どっしりした構えと強靭な下半身に人一倍の鋭いスイングスピードが持ち味。内外角もコースに逆らわずに打ち返すから広角に本塁打を放つことが出来た。そんな「神様」でも、邪心や色気が出れば崩れを生む。
チームの優勝と言う呪縛から解き放されて、少しは気楽に打席に迎えるようになっても状態はなかなか上向かない。打撃とは、それほどに難しい。
村上を襲うスランプ。実は昨年も同様なことが起こっている。
シーズン131試合目に39号、107打点で一度は二冠に立った。だが、残り12試合で放った本塁打はゼロ。打点もわずか5しか伸ばせず、岡本和真選手(巨人)に1打点差で抜かれ、一冠に終わった。さて、今年は残り試合で過去の苦い教訓を生かして、復活が成るか? まさに神のみぞ知る領域だ。
「個人成績よりチームの成績を最優先で考えられる男」とチームメイトは口を揃えて村上のフォア・ザ・チームの精神を称える。一方で「誰よりもいい数字を残して、高みに上りたい」と考えるのも、また村上の本音である。
22歳の若さで、それを両立出来るのが怪物の真骨頂だ。
クライマックスシリーズから日本シリーズ。さらに来季以降も村上の前人未到の旅が続く。トップランナーとは現役を退いて、バットを置くまで自己との戦いの連続である。
「神様」とまで呼ばれるようになった人間・村上宗隆。次なる称号は何になるのだろうか?
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)